空を行く雲を眺めながら湖面に漂っていた湖精は、ふいにざわめきだした森の木々と小さな同族達の気配に覚醒する。
「どうかした?」
近くを通り過ぎようとしていた小さな光達に訊ねれば、返って来たのは意外な答え。
『人の子だよ』
『人の子がやってきたんだ』
「なんですって?!」
どうして、と尋ねる前に飛び去ってしまった小さな姿を見ながら、聞いても仕方のないことだったと思い直し、湖精は眉をひそめる。
近くに人里があるとはいえ、それは人の子の足で行けば、何時間もかかる森を隔ててのこと。
人の子からすれば、ここは気軽にやってくるような場所ではない。
だとすれば……一体なぜ?
湖精の脳裏に、真っ先に浮かんだのは、あの赤子のこと。
「あの子の親?それとも家族?」
湖精は、怒りにも似た焦燥感に駆られ、湖面を波立たせた。
「捨てたくせに、取り戻しに来たの……?……今頃になって?」



