それからの湖精は、傍目には特に変わりなく、穏やかに過ぎて行った。

時折、流れて来る異物によって影響を受けた湖水の浄化を行い、周囲の森を見守り、時折やってくる花精や木精、動物達などと話をしたりもする。

赤子を見つける前と変わりない、湖を護る精霊らしい日々。

しかし、小さな湖は以前ほどの輝きをもたず、いつも曇り空のような、鈍い色をしていた。

それもそのはず。

穏やかに、精霊らしく過ごしていた湖精ではあったが、心の内では、いつも小さな葛藤を繰り返し、どこか物足りない思いを抱えていたのだ。

原因は、もちろん、あの赤子。

四季が巡り、春がやってくれば、赤子を見つけた時のことを思い出し、夏に岸辺の若草を見れば、あの子の髪はもう肩くらいまで伸びたかしら、と思いを馳せた。

秋も、冬も、朝も、夕暮れも。

一緒に過ごしたのは、ほとんど腹の中だけだったにも関わらず、身の回りの何もかもが、赤子のことを思い出させ、湖精は年々、水面に漂い、ぼうっと空を見上げるような姿がよく見かけられるようになった。