「あなたが言うように、死んではいないのかもしれない。でも……それはもう……人の子の域を超えている」
鈍い反応しか返さない湖精がじれったくなったのか、花精は羽根を広げて飛び上がった。
「本当は、あなただって……わかっているのでしょ?」
花精は、湖精の顔を正面から見据えて言う。
「確かに、わたしたち精霊は人の子に恵みを与えるわ。でも、彼らが自分の足で立つということを奪ってもいけないの。必要以上に関わってはいけない。それが、私達の掟よ」
ハッとしたように花精を見返した湖精に、花精は小さな指先をつきつける。
「そうよ、あなたが今やっていることは、精霊の掟に触れる行為なの」
断罪する、というには、あまりに弱々しい口調で、花精は言う。
「わたしたち精霊が守るべきは、世界の均衡、自らの役目。それを崩す者は、もはや精霊ではいられないわ……」
役目を果たす……それが精霊たる彼らの、存在理由。
それが果たせなくなった時、精霊は……人で言うところの、死を迎える。



