ユルトと精霊の湖


「どこへ行っていたの?!」

くるくるとせわしなく羽ばたき、イライラと花精が言う。

「あなたがいなくなってしまって、ほら!すっかりしおれてしまったじゃないの」

少し離れただけ、とは言えなかった。

いつの間にか季節は変わり、湖と、その周囲の変化にも気づいていたからだ。

湖岸の植物はすっかり元気をなくしているものもある。

「ごめんなさい……あの子が心配で……離れられなかったのよ」

言い訳めいた言葉が気に障ったのか、花精がぶわっと体をふくらませたのを見て、湖精はあわてて言った。

「でも、大丈夫よ。すぐに浄化を始めるわ」

忘れていたわけではない。


ここは、私の命の源。

護るべき水、護るべき森の住人達がいる、私の居場所。


そのことを忘れていたわけではないけれど、腕に抱いた、あの温もりを見捨てることができなかった。

でも、ここだって同じ。

こんな状態になっているのを、捨て置けるわけがない。

赤子の元に、すぐにでも戻りたいと思う心を抑え、湖精は大きく腕を広げ、湖の底へと身を沈めていった。