ユルトと精霊の湖


指さされ、慌てて動き出す火の精霊。

それを確認した地の精霊は湖精を伴って、少し下流にある両側を切り立った岩に挟まれた急な流れの場所に移動すると、水中の岩に小さな穴を開け、中に球状の空洞を作った。

「ここならば、人の胎内と近い状態で、この子を育てることができるはず」

地の精霊が内壁に向かって手をかざすと、そこから、赤子と同じくらいの温度の湯が流れ込んでくる。

「さあ、これでいいでしょう」

湖精がおずおずと腕を開いて赤子を湯に浮かべると、地の精霊は赤子の髪を撫で、その小さな額に口づけた。

「治るかどうかはわからないけれど、もし、どこかに傷があるならば、ここで癒すことができるでしょう」

「ありがとうございます」

冷えてしまった赤子の肌があたたり、ほんのりと染まっていくのを確認し、湖精は膝を折って、礼を述べる。

「でも、命は巡るもの……執着は禁物よ」

地の精霊の言葉にもうわの空で、湖精は赤子を抱きしめる。

それは湖精が今までに感じたことのない、やわらかな幸せの空間だった。