桐ヶ谷くんに追いつこうと必死に歩いていると、突然後ろから声が聞こえた。




何、この気持ち悪い声。



だみ声で聞きたくない嫌な声だ。




「はぁ。だから早く来いって言ったんだよ」




前にいた桐ヶ谷くんが、そうポツリと呟いた。




もしかして、この人たちが来るの知っていたの?





じゃあ、どうしてここに……。




「こいつら、いつも夕方頃に俺がここにいること知っているから喧嘩売りにくんだよ。毎日、毎日、暇かっつの」




「……」




どうして、そんな危ない所に私を連れて来たのよ。




今日は来ないとでも思ったの?
毎日来ているなら、今日も来るのは当たり前じゃない。




桐ヶ谷くん、わざと私を危ない目に遭わせようとしたの?




でも、さっき凄く焦っているみたいだったからもしかしたら……守ろうと、した?



いや、じゃあ元からこんな所連れて来ないよね?




やっぱり、桐ヶ谷くんってよく分かんない。




「お前だけ先に帰ってろ」



「は!?」




そんなことできるわけないでしょ!?




元々バイクで来たし、ここがどこだか分かんないし、バイクの運転なんてできないし。




帰り道なんて、分かるわけないじゃん!




「……あぁ、そうか」




何かに気付いたのか、桐ヶ谷くんは小さな崖の上に停めてあるバイクを見て、ため息を吐いた。





「じゃあ、俺から絶対離れんな」





そうして、私をそっと背中の影に隠した。