「学校も家もつまんねぇからな。たまにここに来て、心落ち着かせてんだよ」
そう言いながら、桐ヶ谷くんはひとつだけ置いてあった大きな丸い木に座った。
それはまるでベンチみたいになっていて、ドラマに出てきそうなものだった。
「座れよ」
「あ、うん」
桐ヶ谷くんに促され、私は桐ヶ谷くんの横に座った。
その横顔は何だかとても悲しそうだった。
「何か、悩んでいるの?」
無意識にそう聞いていた。
驚いたのか、桐ヶ谷くんは目を見開いた。
ちょっと、無神経だったかな。
そこまで深い仲じゃないのに、悩みを聞こうとするなんて。
「悩みがあっても、お前になんか言わねぇよ」
そう言って、頭を小突かれた。
あはは。ですよねぇ。
桐ヶ谷くんは私のこと、多分『お弁当を作ってくれる都合の良い女』と思っているんだろうし。
そんな女に悩みを打ち明けてくれるわけないよね。
って、何ガッカリしてんのよ!
「さっさと帰るぞ。遅くなってお前の親に怒られるのも面倒だし」
「え?」
まさか、桐ヶ谷くんがそんなこと言うなんて。
勝手な想像かもしれないけど、夜遅くまで振り回されると思っていたから。
桐ヶ谷くんって、見た目不相応な部分が多すぎる気がする。
「何だよ。お前一人で暗い海辺に残るのか?」
「そ、そんなわけないでしょ」
相変わらず優しいのか優しくないのか、よく分かんないなぁ。
だけど、送ってくれるみたいだし、優しい、のかな?
よく分かんないけど。
「だったら早く来い」
あれ?なんか桐ヶ谷くん、急に慌ててない?
どうしたんだろう。
心なしか、さっきより早足な気がする。
こんなろくに歩けないような所で、そんなに早く歩かれると転びそうだし追いつくのにやっとなんだけど。
「あれれ~? 桐ヶ谷くん、こんな所でデートですかぁ?」