さっきまで人とぶつからずに歩けるくらいだった場所が、今はそうはいかなさそう。
「茜ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。たぶん……?」
さすがにこの人ごみの中に入っていくのは不安で、少し足がすくんだ。
大丈夫。
逆に全く人気がない場所の方が怖いことを、私は知っている。
こんなににぎわってる場所で、何かが起こるわけないって、ちゃんとわかってる……んだけど……。
「……茜?」
無意識に、颯太の服の裾を掴んでいた。
驚いたように私の名前を呼ぶ颯太の声にハッとして、思わずその手を放す。
「あ、ご、ごめん……」
私ってば、いま何を……?
服の裾とはいえ、無意識に颯太へと手を伸ばしていた自分に動揺した。
颯太だって、突然私に掴まれて驚いたに決まってる。



