花火大会当日。
「まさか茜が花火大会に行く日が来るとはね~」
「……ちょっとお母さん、そのセリフ何回目?」
浴衣の着付けをしてくれるお母さんがこのセリフを言ったのは、かれこれ4回目だ。
「ごめんごめん。でも嬉しくて……。はい、できたわよ」
「ありがとう、お母さん」
ポン、とお母さんに帯を叩かれ、姿鏡に視線を向ける。
ショッピングの日に胡桃と一緒に思い切って買ったこの浴衣は、自分でもかなりお気に入りだ。
クリーム色の生地に、大きな椿の花が散りばめられたデザイン。帯は深い緑色。
「何度見ても可愛いわねぇ、その浴衣」
お母さんにそう言われて、思わず「でしょ?」とドヤ顔をした。
颯太が迎えに来てくれる約束の時間まで、あと5分。
花火大会に行くなんてお母さんに心配をかけるかもと思ったのに、お母さんは『颯太くんがいるなら』と快くOKをしてくれた。



