カジビが不屈の精神でいられたのもキイトが側で理解を示し応援してくれたからでもある。
だが、それも限度があった。
カジビは自分の力を試そうと人間界に忍び込み、人々から色々な感情を鏡に映し出しては閉じ込めると言うことをしていたときだった。
それを見ていた他の者たちは、カジビが将来この山の者の意を操るために練習しているのではと、驚異的なものを感じてしまった。
カジビの力は強力で使い方を間違えれば命取りになるからだった。そう思ってしまうのも、不吉の象徴とされるあの二又の尻尾がかなり影響している。
そんな恐れを抱いていると、普段、尻尾のことをからかわれ、嫌われていてもヘラヘラと笑っているカジビの態度から、将来復讐を企んでいるように見えてしまい、却って人々の不安を掻き立てた。
一人がそんなことを話し出すと、それは尾ひれをつけて一人歩きしてしまい、カジビが将来山神の座を狙っているのではないかと疑心暗鬼になるものまで現れた。
人々はカジビを山から追い出したいと願うのだが、他のものよりも位の高い、山神の使いの巫女であるキイトが庇うために、なかなかできかねないでいた。
キイトは山の者が誤解をしているだけだと説得し、カジビはこの山には欠かせない存在になると強く主張する。
実際は噂だけが先走りして、実質被害があったという話はない。
それもあり、山の者達はキイトを信用しようとしていた。
そんな時、キイトの持病が悪化してしまい、病を治すために山を離れなくてはならなくなってしまった。
キイトは不安を抱えながらも、カジビが大丈夫だからと念を押し、それを信じて山を離れた。
キイトはここまではカジビと過ごした昔を懐かしむように語ったが、その後は人づてからしか聞いてないと淡々と語る。



