恋の宝石ずっと輝かせて2


 慌てて待ち合わせの場所へ向かっていたユキだったが、昇降口で自分の靴を手にしてふと動きが止まった。

 よく考えれば、全然知らない下級生。しかもあの睨んだ目顔から自分に敵意を持っている。

 一方的に約束を押し付けられ、何も律儀にその通りに行かなければならないのだろうか。

 一体自分に何の用があるというのだろう。

 このまま無視することもできるが、そうすればまた絡んでくることだろう。

 だったら早く済ませた方がいい。

 幾分か冷静になったユキは靴を履き替え、自分も挑む気持ちで再び約束の場所へと向かった。


 指定された校舎の裏の雑木林。

 いつも通りに田舎に相応しい自然に溢れた場所だ。

 今は夏。蝉の声が所々で聞こえていた。

 少し裏手を奥に進めばそこは誰も足を滅多に踏み入れない。

 気温も少しばかり落ち着いて、風が吹けば汗ばんだ肌に涼しく感じた。

 まだこの辺りはやや斜面ではあるが、そのまま進めば勾配が急になってハイキングコースとでも言うべき山の頂上へと誘う。

 ユキは汗ばんだ額を軽く拭った。

 考えまいとしても、目に映る景色に心がざわついてきた。

 ここは、ジークに罠を張られて瀕死の思いをした場所だからだ。

 その時のことは事件の解決によって、ユキは忘れたつもりでいた。

 いや、考えないようにしていたのだ。

 ここにはあれ以来足を踏み入れたことはなかったが、記憶は体のどこかに隠れていただけだと思い知らされた。

 トイラが必死で助けてくれたことが蘇り、胸がちくりと痛くなる。

 あの時に感じた胸の痛みもすごかったけれど、今だって充分苦しい。

「トイラ……」

 ユキはつい名前を小さく呟いた。

 目の前の木々の葉っぱの緑が、エメラルドの輝きをもったトイラの目を想起させる。

 とても美しい輝きを持った瞳。

 そこに映っていた自分の姿。

 もう一度自分を見つめて欲しい。

 トイラの姿を追い求め、ユキは周りが見えないほど空想の中に入り込んでいた。

 そこにあの女の子がいたというのに、そのまま通り過ごしていく。