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慌てて待ち合わせの場所へ向かっていたユキだったが、昇降口で自分の靴を手にしてふと動きが止まった。
よく考えれば、全然知らない下級生。しかもあの睨んだ目顔から自分に敵意を持っている。
一方的に約束を押し付けられ、何も律儀にその通りに行かなければならないのだろうか。
一体自分に何の用があるというのだろう。
このまま無視することもできるが、そうすればまた絡んでくることだろう。
だったら早く済ませた方がいい。
幾分か冷静になったユキは靴を履き替え、自分も挑む気持ちで再び約束の場所へと向かった。
指定された校舎の裏の雑木林。
いつも通りに田舎に相応しい自然に溢れた場所だ。
今は夏。蝉の声が所々で聞こえていた。
少し裏手を奥に進めばそこは誰も足を滅多に踏み入れない。
気温も少しばかり落ち着いて、風が吹けば汗ばんだ肌に涼しく感じた。
まだこの辺りはやや斜面ではあるが、そのまま進めば勾配が急になってハイキングコースとでも言うべき山の頂上へと誘う。
ユキは汗ばんだ額を軽く拭った。
考えまいとしても、目に映る景色に心がざわついてきた。
ここは、ジークに罠を張られて瀕死の思いをした場所だからだ。
その時のことは事件の解決によって、ユキは忘れたつもりでいた。
いや、考えないようにしていたのだ。
ここにはあれ以来足を踏み入れたことはなかったが、記憶は体のどこかに隠れていただけだと思い知らされた。
トイラが必死で助けてくれたことが蘇り、胸がちくりと痛くなる。
あの時に感じた胸の痛みもすごかったけれど、今だって充分苦しい。
「トイラ……」
ユキはつい名前を小さく呟いた。
目の前の木々の葉っぱの緑が、エメラルドの輝きをもったトイラの目を想起させる。
とても美しい輝きを持った瞳。
そこに映っていた自分の姿。
もう一度自分を見つめて欲しい。
トイラの姿を追い求め、ユキは周りが見えないほど空想の中に入り込んでいた。
そこにあの女の子がいたというのに、そのまま通り過ごしていく。
慌てて待ち合わせの場所へ向かっていたユキだったが、昇降口で自分の靴を手にしてふと動きが止まった。
よく考えれば、全然知らない下級生。しかもあの睨んだ目顔から自分に敵意を持っている。
一方的に約束を押し付けられ、何も律儀にその通りに行かなければならないのだろうか。
一体自分に何の用があるというのだろう。
このまま無視することもできるが、そうすればまた絡んでくることだろう。
だったら早く済ませた方がいい。
幾分か冷静になったユキは靴を履き替え、自分も挑む気持ちで再び約束の場所へと向かった。
指定された校舎の裏の雑木林。
いつも通りに田舎に相応しい自然に溢れた場所だ。
今は夏。蝉の声が所々で聞こえていた。
少し裏手を奥に進めばそこは誰も足を滅多に踏み入れない。
気温も少しばかり落ち着いて、風が吹けば汗ばんだ肌に涼しく感じた。
まだこの辺りはやや斜面ではあるが、そのまま進めば勾配が急になってハイキングコースとでも言うべき山の頂上へと誘う。
ユキは汗ばんだ額を軽く拭った。
考えまいとしても、目に映る景色に心がざわついてきた。
ここは、ジークに罠を張られて瀕死の思いをした場所だからだ。
その時のことは事件の解決によって、ユキは忘れたつもりでいた。
いや、考えないようにしていたのだ。
ここにはあれ以来足を踏み入れたことはなかったが、記憶は体のどこかに隠れていただけだと思い知らされた。
トイラが必死で助けてくれたことが蘇り、胸がちくりと痛くなる。
あの時に感じた胸の痛みもすごかったけれど、今だって充分苦しい。
「トイラ……」
ユキはつい名前を小さく呟いた。
目の前の木々の葉っぱの緑が、エメラルドの輝きをもったトイラの目を想起させる。
とても美しい輝きを持った瞳。
そこに映っていた自分の姿。
もう一度自分を見つめて欲しい。
トイラの姿を追い求め、ユキは周りが見えないほど空想の中に入り込んでいた。
そこにあの女の子がいたというのに、そのまま通り過ごしていく。



