恋の宝石ずっと輝かせて2

「ただいま」

 パタパタと母親が廊下を小走りするスリッパの音が近づいてくる。

「あら、遅かったわね。夏休みだからって遊び惚けてちゃだめよ。受験があるんだから」

「分かってるよ。腹減った。ごはん」

「はいはい」 

 母親は台所に立ち、出来上がっていた夕飯を温めなおした。

「あっ、そういえば、良子から電話があったわよ。アシスタントが夏休み取るから、仁に手伝って欲しいって」

 良子は母親の妹であり、獣医で動物病院を経営している。忙しいときは頼みやすいとあって、仁はよく仕事を手伝わされていた。

「わかった。後で連絡しておく」

「やっぱり仁も獣医目指して受験するつもりなの?」

 おかずとご飯をテーブルに置きながら母親が言った。

「うん」

 仁は軽く返事してからお箸を手に取り「頂きます」と呟いた。

「なんか仁に動物任せて大丈夫かしら。動物っていっても犬や猫だけじゃないのよ。結構ビビリなところあるのに、ライオンやトラとか診察することになったら怖いわよ」

 母親は脅かそうと冗談を言ったつもりだった。

「大丈夫だよ。黒豹と狼を相手にしたことあったから」

「えっ?」

「いや、なんでもない」

 仁はご飯を口に入れ咀嚼していた。

「とにかくまずは大学入らないとね。そういえばユキちゃんはどこ目指してるんだろう。やっぱりアメリカいっちゃうのかな。仁と遠く離れちゃうとそのまま疎遠になっちゃいそうで怖いな。義理の娘にするならやっぱりユキちゃんがいいし」

 味噌汁をすすっていた仁がむせていた。

「気が早いんだよ」

「だってさ」

「それにユキは僕なんて選ぶわけがないだろ……」

 それをいいかけたとき、玄関のドアが開く音が聞こえ仁の父親が帰ってきた。

 母親はそっちに気を取られて玄関まで迎えに行った。

 仁は無表情でご飯を食べ続ける。虚しさがこみ上げて味などよくわからなかった。

 そして食事が終わると、良子に電話を入れた。

 早速翌朝に来いと言われるが、文句も言わずに素直にそれを受けるところは、自分でもお人よしだと思わずにはいられなかった。