「え? 婚約パーティ?……」

読んでいたブライダル雑誌から 前園 結子は顔を挙げる。

3月ももうすぐ終わりを告げようとしている。

結婚式をこの秋に控えた結子の左手の薬指にはシンプルなデザインのダイヤモンドのエンゲージリングが輝いていた。

 「ああ……来週の日曜日、山岡の逗子マリーナの部屋でね。王稜の連中が君に会ってみたいって大騒ぎらしくってさ……う〜〜ん今の時期じゃヨットはちょっと 寒いかな」

彼……婚約者でもある 立原 圭吾にそう言われた。

 『まったく お坊っちゃま達は次から次へとイベントばっかり思いつくんだから……』

こころの中で思わず苦笑する。
柔らかな光を放つダウンライトにそっと手を翳してみる。

 『まだ……信じらんないや……』


あの日、一目惚れだといわれた。
決してその言葉を信じていないわけではなかったが何もかもがまるで夢の中の出来事に想えて仕方ななったのだ。



 結子は本当に平凡を絵に描いたような娘だった。
家は公団住宅の3DK……
会社員の父とパート勤めの母、高校生の弟の4人暮らしで顔だってスタイルだって良く言ったって十人並みって部類だろうし、地元の公立高校から滑り止めクラスの地味〜な女子短大を卒業した。

自宅から程近いコンビニやスーパーにおにぎりを卸す小さな食品メーカー、ひまわりフーズの工場に併設された事務所の経理担当の事務員として働き出して3年目、本当に平凡な日々を送っていた。


だからまさか絵に描いたようなシンデレラストーリーのヒロインになれるなんて夢にも考えたこともなかったし、こんな話はご都合主義のドラマや小説の世界の話だと思っていたのだ。