太陽に溶かされて




靴箱で靴を履きかえたあたしは、迷うことなく 炎天下の日差しのなか、歩き出す。



「あっつ...」



照りつける太陽を睨むようにして空を仰ぐ。


もう9月も終わるってのに、こんなに暑いなんて。

日傘を持ってくればよかった。


歩けば汗ばむ身体にイライラして、早く涼しいところに行こうとして、少し早足気味に歩いた。


温暖化とかオゾン層とかそんなの知らないけどさ。

こんなに暑くちゃたまったもんじゃない。

本当にイライラする。


別にあたしだって、全く気にしないわけじゃない。

いくら独りでいるからって、慣れるもんでもない。


未だに 突っかかってくる莉奈にはむかつくし、腫れ物に触るみたいに扱うクラスメイトにも思うことはある。



涼しい風が吹いて、少しだけ気分が良くなる。

でもまたすぐに感じられる暑さに眉間にシワがよる。


...あぁもう、今日はなんだか落ち着かない。


上川が話しかけたりするから。


でも、何も知らない上川が、莉奈からあたしの話を聞かされるのも時間の問題だ。


そうしたら きっと 彼の対応も変わる、気付くんだよ。

木下柚奈とは関わらない方がいいって。

それが自分のためだって。



あたしの高校生活は あの日から決定的に変わってしまった。

莉奈のことを何回も恨んだ。


でも、どうにもならなかった。

だからって、息を潜めて3年に上がるまで待つしかないの?

本当に考えるだけで気が重くなる。





何か‘きっかけ’があればいいのに。


そう、例えば、莉奈が転校するとか。

例えば、今すぐクラス替えをするとか。


...そんなの あるわけないじゃん。


ふっと笑った時だった。




「木下!」

「...え?」




突然あたしを呼ぶ、その声の主を探す。



振り返り、見えたのは、走ってくるシルエット。



あぁ、そうだ。

この声は、



彼の声、あたしが返事をしなかった、あの声だ。




でも まさか。


ありえないでしょ。


文句でも言いに来たの?

わざわざあたしを追いかけてきたの?





「上川...なんで?」