「…卒業式に……私を殺す…?」
「あゆ、あんたも気を付けなさいよ?」
「え…?」
「ほら、最近の事件よ。高校生も狙われてるんだから」
「あ…う、うん」
「まぁあゆは殺される理由がないわよねぇ」



当然のようにそう言って、夜ご飯の下準備を始めるお母さん。

当たり前だ。殺される理由なんてない。
私はこれまで些細な喧嘩はあっても、大きな揉め事を起こしたり巻き込まれたことなんてない。

誰かから憎まれたり恨まれたり、ましてや殺されるなんて。
そんなこととは無縁の中で生きてきた。


だからこそ、例の事件が報道されていても他人事で、関心なんて1ミリも無かった。


一気に体中から血の気が引いて、体が震えだす。
今まで感じたものとは比にならないほどの恐怖が、まるで心臓をえぐるように突き刺さってきた。


テレビの中で楽しそうに笑う芸人の声、
昼間までとは違い外から聴こえる子供たちの笑い声、車やバイクが通る音、
お母さんがキャベツを切る無機質な音、

全てに対して敏感に反応し、神経が全てに集中するような。

思考回路を一切絶たれ、何も考えられなくなった私の脳には、ただ"ザクロ"という顔も知らない人物から送られてきた手紙の内容がひたすらにループする。



「…ごめんお母さん…ちょっと、部屋にいる」
「え?どうしたの?」
「体調…わるくて」
「ええ、大丈夫?ご飯は?」
「食べれるかわからないけど、とりあえず休んでくる」
「わかった。何かあったら言いなさいね」



母の最後の呼びかけには反応せず、自分で意識があるのかないのかわからないほど虚ろなまま、部屋の扉を開けた。