先生は殺人鬼。


佐伯さんが休んでいた理由を知らされたのは、昼休みだった。
いつもの騒がしい教室と廊下に、やけに重苦しい放送が響く。


《生徒の皆さんにお知らせします。至急、自分の教室に戻りなさい。

繰り返します、至急、自分の教室に戻りなさい》


ただ事じゃないと察した生徒たちが、ざわめきながら散っていく。


「………どうしたんだろう」
「さあ。俺らは教室にいるからカンケーねえけどな」


いつもヨッシーと教室でお昼を過ごしている私は、放送の指示で教室に戻ってくるクラスメイトを見ているだけだった。



しばらくして、神楽先生がやってくる。
その顔は、まるでこれからこの世の終わりを知らせるかのような深刻なものだった。

教卓に立つなり、呆然とした様子で一言も喋らない。
その様子に、しだいに生徒たちは疑問を抱きはじめ、先生の名前を呼び始めた。


すると先生は深呼吸を一つして、ポツリと言葉をこぼす。



「佐伯のこと…なんだけどな」
「佐伯さんがどーしたのー?」


「……亡くなったんだ…」



先生の言葉に、さすがの生徒たちも一瞬で黙り込む。
私を含め、全員がその意味を理解するのに時間を要した。



「亡くなった…って…?」



佐伯さんと一番仲の良かった松原さんが、恐る恐る立ち上がって先生に問いかける。

クラス全員……いや、この事を今知らされているであろう全校生徒の気持ちを、松原さんは率直に先生に投げた。



「登校途中…後ろから刺されて…殺されたらしい……。」


その瞬間、時間が止まったような気がした。
誰も動かない、喋らない、物音一つない、呼吸の音さえ聞こえない空間。
思考は目一杯回転するが、あまりに突然の出来事に理解が追いつかない。

先生は続けて、こうつぶやいた。


「佐伯の鞄の中に……手紙が入っていたらしい…」
「手…紙って…まさか…」
「……ザクロからの殺人予告だ…」


先生がそう言った途端、松原さんはまるで糸が切れた操り人形のようにその場に倒れた。
しかし、生徒たちは全員驚きと恐怖で自分の席から動けず、誰も松原さんに駆け寄ろうとする人はいなかった。


そして私は、朝の手紙のことを思い出し、背中が凍り付いたような気がした。