ブレザーの制服に身を包み、葬儀場のドアを開ける。
真っ白な百合の花がたくさん飾られていて、会場の最奥部には純白の棺桶が2つ置いてあった。
1週間前、私達は交通事故にあった。
猛スピードで蛇行していた対向車線の車を上手く避ける事が出来ず、勢いを落とすことなく衝突した。
フロントガラスが割れ、運転席と助手席に座っていた父と母は病院に運ばれたものの、即死だった。
私は一時意識不明だったものの、傷は数カ所の切り傷だけだったため、命に別状はなかった。
「お父さん…お母さん…」
静かに棺桶の蓋をさする。
もっと話がしたかった。
もっと甘えていたかった。
わがままを謝りたかった。
どんなに思っても、もう生き返ることはない。
涙が枯れるほど泣いた筈なのに、またぽろぽろと涙が溢れてくる。
「茜ちゃん。」
不意に、背後から私を呼ぶ声がした。
振り返ると、黒い着物に身を包んだ1人の女性が立っていた。
「どなた様、ですか?」
女性は優しく、そして悲しげに微笑んだ。
「私は仁科 翠(にしな みどり)。
茜ちゃんのお父様の方…小野家の親戚よ。」
急に親戚と言われても、私は見たことがなかった。
小さい頃に会ったことがあるのかもしれないけれど、覚えていない。
「茜ちゃん、これからどうするの?」
「…わかりません。どう生きていけばいいのか、何をすればいいのか、全く、分からないんです。」
また、大粒の涙が溢れてきた。
かっこ悪い姿を見せないようにしようと、下を向き、スカートの端をぎゅっと握る。
「茜ちゃん、顔を上げてちょうだい。
今は泣いたっていいのよ。誰も責める人はいないわ。」
翠さんが白いハンカチを取り出して、私の涙を優しく拭った。
「茜ちゃん、あなたに提案があるの。
…あなたさえ良ければ、私達の家に来ない?
なに不自由なく過ごさせてあげるわ。」
突然すぎる展開に、私は顔を上げて翠さんの方を見つめた。
「もちろん今茜ちゃんが住んでいるところからは少し遠いところにあるから、引っ越さなくてはならないけれど…。
もう悲しい思いはさせないと約束するわ。」
今日初めて会ったお父さんの親戚。
どんな運命が待っているのか、私に想像できるはずがなかった。
私は後ろにあったお父さんの遺影を見た。
そこには、『行ってこい。』と私に語りかけるような笑顔のお父さんがいたように見えた。
私は顔の涙をブレザーの袖で拭い、翠さんの手を取った。
翠さんは何も言わずに、優しく頷いた。
そして、葬儀場のドアを開けて、一言も話すことなく部屋を去った。
今、静かに、ゆっくりと私の運命の歯車が回り始めたんだ。
真っ白な百合の花がたくさん飾られていて、会場の最奥部には純白の棺桶が2つ置いてあった。
1週間前、私達は交通事故にあった。
猛スピードで蛇行していた対向車線の車を上手く避ける事が出来ず、勢いを落とすことなく衝突した。
フロントガラスが割れ、運転席と助手席に座っていた父と母は病院に運ばれたものの、即死だった。
私は一時意識不明だったものの、傷は数カ所の切り傷だけだったため、命に別状はなかった。
「お父さん…お母さん…」
静かに棺桶の蓋をさする。
もっと話がしたかった。
もっと甘えていたかった。
わがままを謝りたかった。
どんなに思っても、もう生き返ることはない。
涙が枯れるほど泣いた筈なのに、またぽろぽろと涙が溢れてくる。
「茜ちゃん。」
不意に、背後から私を呼ぶ声がした。
振り返ると、黒い着物に身を包んだ1人の女性が立っていた。
「どなた様、ですか?」
女性は優しく、そして悲しげに微笑んだ。
「私は仁科 翠(にしな みどり)。
茜ちゃんのお父様の方…小野家の親戚よ。」
急に親戚と言われても、私は見たことがなかった。
小さい頃に会ったことがあるのかもしれないけれど、覚えていない。
「茜ちゃん、これからどうするの?」
「…わかりません。どう生きていけばいいのか、何をすればいいのか、全く、分からないんです。」
また、大粒の涙が溢れてきた。
かっこ悪い姿を見せないようにしようと、下を向き、スカートの端をぎゅっと握る。
「茜ちゃん、顔を上げてちょうだい。
今は泣いたっていいのよ。誰も責める人はいないわ。」
翠さんが白いハンカチを取り出して、私の涙を優しく拭った。
「茜ちゃん、あなたに提案があるの。
…あなたさえ良ければ、私達の家に来ない?
なに不自由なく過ごさせてあげるわ。」
突然すぎる展開に、私は顔を上げて翠さんの方を見つめた。
「もちろん今茜ちゃんが住んでいるところからは少し遠いところにあるから、引っ越さなくてはならないけれど…。
もう悲しい思いはさせないと約束するわ。」
今日初めて会ったお父さんの親戚。
どんな運命が待っているのか、私に想像できるはずがなかった。
私は後ろにあったお父さんの遺影を見た。
そこには、『行ってこい。』と私に語りかけるような笑顔のお父さんがいたように見えた。
私は顔の涙をブレザーの袖で拭い、翠さんの手を取った。
翠さんは何も言わずに、優しく頷いた。
そして、葬儀場のドアを開けて、一言も話すことなく部屋を去った。
今、静かに、ゆっくりと私の運命の歯車が回り始めたんだ。

