「明日の夜に帰国する弾丸ツアーだって言ってたから、夜家ででも待っていたら会えるだろう」

「ありがとうございます」

深々とお辞儀をする幸弘の肩を川崎が軽く叩く。

「なあ、赤瀬くん。勤め先が彼女と会えないくらい仕事が忙しいブラック企業なら、社長に俺から伝えてもいいぞ」

「え?」

「確か、香月化粧品で働いているんだろ?」

「はい」

「社長の白井航は、俺の高校時代の同級生だ。社員の恋路を邪魔するような会社経営をするなって言っておくけど」

川崎の爆弾発言に、幸弘の顔から血の気が引く。

「それは勘弁してください。ちゃんと休みももらってるし、杏奈と会えなかったのは全部俺の責任です。白井社長のことは俺も尊敬してるし……。とにかくブラック企業ではないですからね!」

慌てふためく幸弘の姿を見て、川崎は大きな口を開けて笑う。

「冗談だよ、冗談。いやあ、いいもの見れたなあ。赤瀬くん、高梨と仲直りしたら、また遊びにおいで」

そう言い残し、川崎は店の中へと消えていく。

「あ、そうだ」

扉が閉まる寸前に、川崎が幸弘の方へと振り向いた。