私たちの六年目

郁未にそう言われると、止まっていた梨華の涙が再び流れ始めた。


そしてそのうち、小さな子供がするような、しゃくり上げる泣き方に変わっていった。


「……ない。出来ないよ……っ。

そんなの、割り切れるわけない。

彼のことは、いつか忘れることが出来ても。

このお腹の子とさよならしたことは、きっと一生忘れることは出来ない……っ!」


そう言うと梨華はわぁっと泣いて、崩れるように机に顔を伏せてしまった。


同じ女として思う。


自分がその道を選ばないといけないとしたら、それはきっとひどく悲しいことだし。


それが正しかったのかどうか、いつまでも自分に問い続けることになるに違いない。


「だったら、梨華。

もっとゆっくり考えて、後悔しない選択をして。

もし産める環境だったら、あんたはどうしたいの……?」


郁未の問いに、黙り込む梨華だったけど。


しばらくしてムクッと顔を上げると、長いストレートの髪をスッと耳にかけて、郁未の方を見て言った。


「産みたい……」


それは、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だった。


だけど、その言葉は紛れもなく梨華の本心だった。


そうなんだ。


梨華はやっぱり、お腹の子供を産みたいんだね……。


それを聞くと、やけにホッとする自分がいた。


「なんか突然のことにすげービックリして、頭の中がまだパニックだよ」


奥の席に一人で座っている守が、頭を掻きながら呟いた。


「でも、なんか……な。

もちろんオレだって、梨華の気持ちを尊重してやりたいよ。

でも、さっきお前が言ったように、子供を育てるって大変だと思うぞ。

その子供の一生に関わることだからな」