私たちの六年目

「ちょっと、何するの? 秀哉!」


自分のドリンクを取られて、思わず梨華が大きな声を出した。


今の今まで、私の隣で静かにしていた秀哉。


彼に視線を向けると、その顔は怒りに満ちていて。


そんな秀哉を見たのは初めてで。


私はゴクンと息を呑んだ。


「何がもう大丈夫だよ。

全然大丈夫じゃないくせに……」


秀哉の言葉に、梨華の動きが止まる。


「相手の男のことを忘れるためなら、俺達はもちろん協力する。

いくらでもグチを聞いてやるし、元気になれるように励ましてやるよ。

だけど、お腹の子供は……?

相手の男と別れたって、そのお腹の子は自分の子供なんだぞ?

そう簡単に割り切れるのか?」


秀哉の言う通りだ。


梨華のお腹には、ひとつの命が宿っている。


その命をあきらめないといけないなんて、そんな悲しいことってない。


「そんなこと言ったって、田舎の両親になんて言えばいいの?

シングルマザーになるなんて言ったら、ひどく怒られるに決まってる。

せっかく大学に行かせたのに、お前は何をやっているんだって。

親子の縁を切られたって、おかしくないよ」


大学の頃、梨華が話してくれたっけ。


梨華の両親は、ものすごく厳しいって。


特にお父さんが厳しくて、梨華は小さい頃からそんなお父さんに怯えながら過ごして来たらしい。


梨華が優しい年上の男性に惹かれるのは、家庭環境の影響もあるのかもしれない。