私たちの六年目

「もういいって、そんな……。

梨華、こんなにボロボロになっているのに……」


郁未が、泣きそうな顔で言った。


「失恋したんだもの。ボロボロにもなるわよ。

だから今夜は、思いっきり飲みたいの。

みんな、付き合ってくれるよね?」


そう言って口角を上げる梨華だけど、無理しているのは一目瞭然だった。


「もちろん付き合うわよ。

付き合うけど、でも……。

お酒なんて飲んで平気なの……?」


郁未の言う通りだ。


さっき梨華は、日本酒を頼んで欲しいと私に言ったけど。


本当にその身体で、お酒を飲むつもりなの……?


「だって、私一人じゃ育てる自信がないもの。

生まれて来る子供だって、父親がいないんじゃかわいそう。

つらいけど。

すごく悲しいけど。

そうするしか他に方法がないじゃない」


そう言うと梨華は、悲しそうにタッチパネルを手にして、自分でお酒を注文し始めた。


そんな梨華の姿を、私達は黙ってじっと見ていた。


しばらくすると、梨華が私達の視線に気づいて、ハッと顔を上げた。


「ごめんね、みんな。

久しぶりに集まってるのに、暗い話ばかりして。

私はもう大丈夫だから。

だから、楽しく飲もう」


必死に明るく振舞って見せる梨華だけど、こんな状態で楽しめるわけないじゃない。


しばらくすると、梨華が注文した日本酒がテーブルに運ばれて来て。


梨華が、その日本酒を手にしようとしたその時。


梨華よりも先に、日本酒を取る大きな手が見えた。