「それなのに、私とキス出来るんだね」


梨華のことが、死ぬほど好きなくせに。


彼女以外、眼中にないくせに。


「ごめん、菜穂」


ズキンと、胸の奥に痛みが走った。


そんなふうに謝られると、私とのキスは間違いだったと言われているみたい。


「俺にこんなことされて、すげー迷惑だったよな……」


「迷惑っていうか……。

どうしてなのかなって」


ただ、その理由が知りたいだけ。


「さっきも言ったけど。

このことをうまく説明出来ないんだ。

大学2年のあの夏の日。

菜穂の顔を間近で見ていたら、どうしてもしたくなった。

そんなことしたら、友達でいられなくなるかもしれないのに。

なのに俺、そのリスクを考える前に行動に移してた。

してる時は何も考えられないのに、終わった後は複雑で……。

菜穂に何を言っていいのか、わからなかった……」


そうだったんだ。


あのキスの後、このことに一切触れなかったのは。


私に何を話していいのかわからなかったんだ……。