俺の言葉に、目を泳がせる梨華。


おそらく動揺しているんだろう。


「あんな人、もう忘れたわよ……」


梨華は、俺の目を見ないで言った。


「忘れたって言う割に、梨華の部屋はその男の思い出でいっぱいだったよな」


「は? 何それ?」


とぼけるつもりなのか?


あれだけの証拠を残しておいて。


「その男の着替え、歯ブラシ、使っていた食器。

全部、梨華の部屋に残っていたじゃないか。

俺を部屋に呼んでおいて、それはないんじゃないのか?

泊まってくれって言ってたけど。

その男と寝たベッドを、俺に使えって言うのか?」


そのベッドで愛し合ったから、お腹に子供が宿ったんだろう?


そう思ったら生々しくて、めまいがしそうだった。


「彼の物は、今はもうないじゃない」


「あぁ、俺が捨てたからな。

着替えも歯ブラシも。

でも、自分じゃ捨てられなかっただろう?

それが何よりの証拠じゃないか」


つわりでしんどかったから?


片付けが下手だから?


言い訳はいくらでも出来るかもしれない。


でも、本当に俺のことが好きで。


俺と結婚しようと思うなら。


あの部屋に俺を呼ぶなんて、そんな無神経なこと。


絶対に出来ないはずなんだ……。