「もっと早く、自分の気持ちに気づきたかった。

もっと早く、菜穂の気持ちを知りたかった。

そうしたら俺達……。

今頃、恋人同士になってて。

すごく幸せだったはずなのに……」


秀哉と私が恋人同士、か……。


そうなれる可能性があったのは、多分大学二年の夏。


海で初めてキスをしたあの日だ。


あの時私が好きだと伝えていたら、今の私達はきっと違っていた。


あの日もっと触れ合えていたら、きっと……。


「だけど、もうそれも叶わないんだな……。

俺が、気づくのが遅かったから。

菜穂の気持ちを、踏みにじったから。

だから、好きな人の心を、手に入れられなかった……」


好きな人の心って……。


私の心?


「菜穂の気持ちを、取り戻せたらいいのに……」


私がそう言うと、秀哉はゆっくり顔を起こした。


その頬は涙に濡れていて、目が真っ赤になっていた。


「もう一度、菜穂が……。


俺のことを好きになってくれたらいいのに……」