その時、歩行者信号が赤になって、私は足を止めた。


車が目の前を通り過ぎるたびに、クセのある私の前髪がユラユラと揺れる。


「いるんですね」


「どうして? 何も言ってないじゃない」


「何も言わないからですよ。

否定しないから、そうなのかなって。

誰ですか?

同じ会社にいますか?」


私は前方を見たまま、ううんと首を横に振った。


「取引先の人? それとも業者さん?」


「崎田君、もうやめない? そんな話」


早く青になればいいのに。


この信号、やけに長くない?


少しイライラしていたら、ようやく車両用の信号が黄色になって。


あぁ、これでやっと前に進めると思ったその時。


「もしかして……。

毎週会ってる大学時代の友達ですか……?」


崎田君が、少し低い声で言った。


青になる歩行者信号。


周りにいた人達は歩き始めているのに、私達はその場に立ち尽くしていた。


「そうなんですね?」


崎田君の言葉に、私はどうしようもなく指に力が入っていた。


何よ……。


何なのよ。


なんで、そんなことを言われないといけないの?


「崎田君には関係ない!」


そう言い捨てると、私は崎田君の顔を一切見ないでその場から走り出した。