廊下を進む足が少しだけ早足になって、さっきまでいた教室の前を通り過ぎようとした。
何気なくオレンジに染った教室に視線をやって、気がついた。
窓際から3列目、前から4番目。
彼の住処に置かれた、通学カバン。
黒い猫のあみぐるみがついたそれは間違いなく、彼のもので。
「 無防備、だなぁ 」
誰も取る人なんていないとは分かってても、お財布も入っているはずのカバンをそのままにするのなんて無防備にも程があるよ。
きゃははっと笑い声を上げながら私の横を通り過ぎていく3人組の女の子たち。
私以外に残っている人達は、一体どんな理由があるんだろう。
部活?それとも居残り?
私みたいに誰かを待っているの?
そんなものは計り知れないけれど、きっと誰かを待っているとするならそれは、私みたいに会えるという確証のないものじゃないんだろうな。
そう思って、私は音楽室へと足を進めた。
追い払われちゃうかなぁ、また。
挫けないって言ってるけど、結構しんどいんだよ、来んなって言われるの。
でも、もうここまで来ちゃったし。