ローファーに履き変えようとしていたその手を止めて、少しの間考えた。
誰が、この音楽を奏でているのだろう、と。
誰が、こんなにも悲しげな音を紡いでいるのだろう、と。
私は、こんなにも悲しい音を奏でる人を
1人しか知らない。
「 そーすけ、 」
彼が帰ってくるのを待って、一緒に帰ろうと誘うつもりだった。
でも、彼はプリントを出しに行くと友だちに行って以来帰ってくる気配を見せなかった。
…… そっか、ピアノ、弾いてたんだね。
なんとなくこのまままっすぐ家に帰るのも惜しい気がして、私は地に転がっていたローファーを靴箱の中に戻して上履きを脱ぎかけだった上履きを履き直した。