彼女の静かなはずの「 きいて 」の声が、耳が痛くなるくらい悲痛な叫びに聞こえて。


思わずふりかえった。

表情筋がこわばっているのが自覚できるから、俺の顔は相当ひどいだろう。


昔からそうだった。

詩音のお願いは、俺には無視できない。


「 んふふ、ありがとー 」

「 ……っ、 」


痛々しい。
見てられない。



「 泣いてる、の…? 」


ああ情けない。
なんで俺はこんな弱々しい声しか出ないんだろう。ほんと情けない。


「 泣いてないよ 」

「 ……そ 」


小さな沈黙が走って、俺はスニーカーのつま先を見つめた。


「 あのね、 」


しばらくして話しを切り出した詩音は、顔を上げて、しっかりと俺を見据えていた。



「 わた、しがピアノ、弾けなくなっちゃったの、ほんとに、そーすけのせいじゃないの 」


「 …… 」

「 確かに、心因性のものだって、言われたけど…



────── から、 」



優しい春風が、詩音の長い髪を揺らして表情が見えなくなった。


「 ……そ、 」


あーあ、情けない。
情けないくらいに表情が緩んでいく。


「 だからそーすけのせいじゃないよ 」


違うよ、俺が嬉しいのはそこじゃない。