「ストーカーのお兄ちゃん課長とは丸っきり違うけど、あたしもどうかって思う」

約束したとおり退社してから、会社の最寄り駅の反対口にあるお気に入りの洋食屋さんに、一実ちゃんと来ていた。
私はトマトソースのハンバーグとエビフライのセット、一実ちゃんはビーフストロガノフとサラダのセットをいただきながら、私服もセンス良く可愛い彼(彼女)が私を見やる。

「美玲は、ほぼ恋愛初心者じゃない? 比較できるものが少ないわけだし、セイジ君の判定基準を間違えちゃいそうで心配! まずは、『井の中の蛙』からせめて『池の中の蛙』にならなきゃね?」

「池、・・・ですか?」

「まだまだもっと色んな人と出会える、ってこと。真面目が悪いって言ってるんじゃなくて、見えてる世界を自分でこれしかないって、狭めちゃうのはもったいないでしょ」

フォークに刺したトマトをぱくっと口に入れて、一実ちゃんは意味深な視線を送ってきた。

「もちろん、本当に美玲が許嫁クンを好きになれれば問題はないって思うけど、そもそも好きになるって理屈じゃないのよね。キモチとカラダが勝手に動いて、自分じゃコントロールできないのが本物の恋って言わない?」