「鳴宮、双葉の非礼は代わりに詫びておく。業務に私情を挟むほどの馬鹿じゃないことだけは保証するから、俺に免じて許してやってほしい」

そっぽを向くふーちゃんの横でたぁ君が頭を下げれば、征士君もイスから立って「それだけ意識してもらえてるなら光栄ですよ」と、あっさりした笑顔を返しました。

目を細めてさらに不穏な気配を隠しもしないふーちゃんを、たぁ君が有無を言わせずに引っ張っていき。
ようやく場が収まって深々と安堵の溜息を漏らすと、一実ちゃんが心底愉しそうな小悪魔顔で私に言います。

「好きだわぁ、双葉クン! あのストーカー課長が霞んで見えるー」

コロコロ笑ってますけど、少しは私の身にもなってください~! 

「俺もそんなに嫌いじゃないな」

征士君がクスリとしたのを、それどころじゃなかったと私からも謝罪をしました。

「いやな思いをさせてしまって本当にごめんなさい・・・! ふーちゃんには、もうあんなことは言わないように約束してもらいますから・・・っ」

政略結婚を嫌う、ふーちゃんの気持ちも分かっています。
でもだからと言って、悪しざまな言い方が許されるわけじゃありません。

俯き、顔を上げられなくなっている私の肩にそっと大きな掌が乗り、「大丈夫だからこっち向いて、レイちゃん」と優しい声が頭の上で聞こえる。
おずおずと見上げた先の甘やかな眼差しに、怒っているわけじゃなかったと力が抜けていきます。

「気にしなくていいよ。堂々とぶつけてもらえて、逆にスイッチ入ったしね。そんなヤワじゃないから俺も」

裏腹に、柔らかく上げて見せた口角にはどこか不敵そうな色が滲んで。
なんだか少し思っていたことと違うような・・・?

「手強いライバル出現ですねー。どーします鳴宮サン?」

愛くるしい一実ちゃんの笑顔までが一層ブラックに見えたのは、どうしてでしょう・・・・・・?