それなりの混雑具合の電車の中でつり革に掴まり、スーツ姿の征士君と隣り合って立っている。・・・というのは、とても不思議な感じがしていました。

「レイちゃんと一緒に帰るなんて、不思議な感じだよな」

思ったことは一緒で。どちらからともなく、小さく笑い合った。

「明日からは忙しくなるし、こんな風にゆっくり話す時間もなさそうかな。スケジュール詰まってて、やりがいは十分だけどね」

車輪が唸る重低音と混ざり合いながら。征士君の声が届く。
横を見上げて耳をそばだてる私。ふと思い出して「あっ」と漏らすと、彼の視線に覗き込まれた。

「あの、もしかしたら、たぁ君が失礼なこと言ったりしてませんか? その、かなり私を溺愛しているので、相手が誰でも気に入らないというか、過保護なシスコンというか、とにかく何か言われても気にしないでください。あれでも仕事はできるんです。他のみなさんに、私のストーカー課長って呼ばれてても、本人は全く悪気もなにもなくて、私にとっては大好きなお兄ちゃんに変わりはないんです、本当に・・・!」

一気にまくしたててしまう。
すると。きょとんとした表情を浮かべた征士君が吹き出し、口許を覆って笑うのを堪える様子で。

「・・・っ、いやごめん・・・! 楠田課長の噂は、二課の女性社員も教えてくれたけどね。微笑ましい人だなとしか思えなかったよ」

自分を落ち着かせるように息を吐いて、やんわりとこっちを見やった彼。

「仕事にプライベートを持ち込む気で来たなら帰れって、言われるのは当然だし、俺も結果出せずに帰るつもりはないってだけ。じゃないと意味がないだろ」

眼差しにまた貫かれた。
甘さとか熱っぽさじゃなく。ただ真っ直ぐ突き抜ける、その眼差しに。