遅くならないうちに送る、と、支配人にまで恭しく見送られたそのお店をあとにして、兄さまとエレベーターで地下まで降りた。

湿った空気と独特の匂い。さまざまな車種の車が整然と並ぶ、薄明るい駐車場。二人の靴音が歩幅の分だけずれて、響く。

「約束してくれるかな」

私の腰を抱いて歩きながら、愁兄さまがやんわりと言いました。

「これからも、どんなことでも僕に打ち明けること。美玲を守るためでもあるし、佐瀬のためでもあるからね」

「はい」

「鳴宮君も話を聞いた限り、一途で努力家だ。・・・彼の望みに応えられないなら、曖昧にしないではっきりと伝えることも大切だよ、美玲」

前に一実ちゃんも、そう教えてくれました。
しっかり頷いて見せる。

「表向きはまだ、二人は結婚相手の候補だからね。佐瀬にも気を付けさせよう」

穏やかな声音でしたけど。どこか気圧されて。

身が引き締まる思いで、両家の間にひびを入れるような軽率な真似はできないと、自分に言い聞かせました。

誕生日まであと二ヶ月。正式に結婚を断って、それから。

その先に待ち受けるものが決して容易くないのを、今は胸の奥底に仕舞い込む。
今は。足を滑らせないように岩をよじ登り、ひとつひとつ越えていくだけです。
佐瀬さんが腕を伸ばして、力強く私を引っ張り上げてくれる。置き去りにしたり、見放したりなんかしない。・・・そう信じられる貴方と一緒に。