「彼はどう答えたのかな」

兄さまは決して問い詰める言い方はしません。ただ静かに。耳を傾けてくれる。

「・・・・・・チャンスが欲しいって言われました。自分のことを知ってもらえないままじゃ納得できない・・・って」

「美玲はどうしたいって思ったの」

「・・・征士君の気持ちも分かるんです。だから、私の誕生日までは許嫁は解消しないことと、結婚しない意思が変わらないならそこで終わりにする約束を、征士君としたんです」

目を逸らさずに。ありのままを。
ほんのわずか、兄さまの眼差しに思案気味な色が滲んだように見えた。

「それが今の二人の答えなら・・・僕は見届けるだけだよ。たとえ結果がどうでもね、後のことはすべて僕が責任を持つ。思うとおりにしなさい」

「ありがとう、兄さま・・・っっ」

そう言って優しく微笑んでくれたのを、ほっと安堵の吐息を漏らして。
望まない結婚を強いるはずがないと知っていても、こうしてちゃんと聴くまではやっぱり心許なかったのかもしれません。

「ところで鳴宮君になにか問題があったのかな。美玲が理由もなく断るとは思っていないからね」

さらり、つかれた核心。
刹那、私の中を突き抜けていったものは何だったでしょう。

佐瀬さんの名前を呼んでいた気もしました。
叫びだった気もします。

「・・・・・・征士君を好きになれそうでした」

ゆるゆると呼吸を逃しながら言葉を紡いでゆく。ひとつひとつ。兄さまに届いてほしいと、願いをこめて。

「子供の頃の約束どおりにずっと私を想ってくれてて。素敵な男の人になってました。お料理も上手で、誠実で優しくて。少しずつ気持ちも傾きはじめてました。・・・でも本物の恋にはならなかった。なる前に、・・・知らないあいだにもうあったんです。自分の中にそれが」