気怠げにハンドルを握る佐瀬さんはいつもと同じで、私に何かを問うことはありません。泣いた理由も、結婚をどうしたのかも。

街中から、国道沿いに大きな工場や倉庫が並ぶスケールの違う景色に移り変わった頃。
期限付きで征士君に今の関係を引き留められたこと、自分の意思で承知したことを伝えた時も、貴方は黙って聴いていただけでした。

私が決めたことなら見届ける。そういう意味だと思えたのは。しばらく経って口を開いた一言。

「・・・・・・お嬢ちゃんの誕生日は?」

「8月2日、・・・です」

「・・・そうかい」

淡淡とした横顔を見つめると、こっちに流れた視線と一瞬だけ交差した。
佐瀬さんが話に触れたのは、それきりでした。