テールランプはとうに彼方だったのに、ぼんやりと視線を投げたまま。電池切れのロボットみたいに。

無意識に深い吐息が漏れ出ると胸の奥底で、鉛玉のようなしこりが重そうに転がった気が。・・・しました。

ノロノロと腕時計を見やると9時ちょっと前。
この駅から快速電車に乗り、途中で1回乗り換えれば最短の時間で私の最寄り駅に着くと、道すがら教えてくれた征士君。
思い返しながら、改札に向かおうと踵を返しかけたその時。歩道越しに、白のスポーツワゴンがピタリと私の横につけて停まりました。

まさかこんな近くにいてくれたなんて思いもしなくて。驚いたとか嬉しいより、張り詰めていたものがぷつりと切れてしまったのかもしれません。
助手席に乗り込み佐瀬さんの顔を見た途端、滲んだ涙があっという間に頬を伝って零れ落ちていました。

「・・・なんで泣かれてンだかねぇ」

溜め息雑じりの少し呆れたような声。・・・佐瀬さんらしい。
馴染んだ掌の温もりを頭の上に感じて、さらに込み上げそうになる。

「さっさと泣き止まねーと、ここで押し倒すぞ?」

「・・・!」

「女を慰める方法なんざ、他には知らねぇからな」

人が悪そうに笑まれた気配に、慌てて目許を拭い隣りを見上げれば。ふっと口角を上げ、上から妖しく目を細める佐瀬さんが。

「分かったら、次はカンタンに泣くなよ」

上にあった手が頭の後ろに回り、顔ごと引き寄せられたかと思ったら、答える間もなく口を塞がれていました。

ほんの少しの苦みとメンソールの香りが入り雑じって。最初から深く繋がったキス。
翻弄されるだけだったのがいつの間にか自分からも求め、もうこのままどうにでもなりたいと思った。

「・・・来るか」

私を離した佐瀬さんの。冷たくも温かくもない、夜空より濃い闇色の眸に吸い込まれるように頷きました。


どこに。・・・なんて、聞くこともしないで。