恋は、秘密主義につき。

「・・・・・・どう、して・・・?」

虚ろで力の無い低い響きが。呼吸すら一時停止させたような、凍り付いた沈黙を破ったと同時に。心臓にのめり込んでいた矢を更に奥深くまで、突き通す。

いっそ。息の根を止めてくれた方が楽だと思えるくらい血を流しても、躰中の細胞が呻き声をあげても。苦しい、と泣く資格は私にはありません。

征士君にとっては。自分の誕生日祝いだったはずの今日一日を、その終わりに真っ黒に塗り潰してしまった身勝手な人間ですから。

「・・・最後、って。・・・会わないって、なんで急に・・・?」

ソファが軋んだ鈍い音。はっと顔を上げた時には遅かった。
ぎゅっと躰に巻き付けられた2本の腕。痛いくらいに抱き竦められていて、1ミリも身動きが取れない。

「せいじ、く・・・ッ」

「嘘、だよな・・・? 終わりにするつもりだった、・・・なんて・・・」

頭上にくぐもった、捻じれたかのように苦しげな吐息。

「ッ、待ってレイちゃん、頼むから・・・っっ」

惑いながらも引き留める必死さに、ただただ心が圧し潰されそうになって。
しっかり伝えなくちゃと顔を上げようとしても。征士君の腕は硬く私を胸元に閉じ込めていた。

「もし・・・っ、結婚を急かされてるみたいで嫌だったなら、そんなつもりじゃないんだ・・・! ずっと先だってかまわない、レイちゃんの気持ちが追い付いてくれるまでいくらだって待つ、その為の努力なら何だってする・・・! レイちゃんを誰より大事にして愛する自信はある。保科さんにも認めてもらえる男でいてみせる、だから・・・っ」 

何かを堪えるみたいに更に込められた力。
言葉のひとつひとつに、魂ごと揺さぶられました。


その手を届かせたくて。
もがいて。

少しでも届いたら、繋ぎ止める方法を懸命に探して。

今の私には征士君の気持ちが、自分のことのように分かります。
好きになってしまったら。
もう想いを止められない。
その人にだけ向かって。

私も。同じ。

どうしても佐瀬さんが好き。

揺さぶられた心臓を見えない手でぎゅっと握りしめ、きつく目を閉じた。