私を軽々と抱き上げてバスルームに連れて来た佐瀬さんに、教えると言ったのは背中のことだったのかと訊ねれば。
どこか苦そうに。口角を上げ、ＹＥＳでもＮＯでもない答え方。

「お嬢ちゃんといると、色ンなもんがどーでも良く思えちまうから困る」

言葉の意味をどう受け止めていいのか、躊躇いがちな視線で問い返すと。

「カワイイ顔してあんまりオレを苛めンな、ってハナシだ」

思い切り目を丸くした私に薄笑いを覗かせた彼は。
シャワーヘッドから勢いよく流れ出すお湯を頭から浴び、その先をはぐらかして教えてくれませんでした。

苛めるだなんて。ひょっとして私、知らない間に何かしちゃったんでしょうか？？






「オレとのコトは、まだ誰にも黙っとけ。お嬢ちゃん」

身支度を整え、玄関先で屈んでフラットシューズを履いている時。
後ろからした、いつもと変わらなかった声に反射的に振り返った私を。
冷たくも温かくもない眼差しがじっと見下ろしていました。