ゴクドウだった、名残。
その意味を咀嚼するのに時間はかかりませんでした。

彼の背中に在ったのは、よくドラマで見るような達筆な刺青ではなく。切り絵みたいなタゥーでした。

中心に描かれた大きな十字架と、十字架に刻まれた、英語ではないアルファベットの綴り。そして。棘のある蔓をからめ赤い薔薇が一輪、艶やかに咲き誇っているのです。

何だかとても。佐瀬さんらしいと思いました。
知って驚いたという程ではありませんでしたし、意外でもなく、ああそうなんだと率直に受け止めていて。
何よりも。隠さないでいてくれたことが、私には価値も意味もあることでした。

「・・・嬉しいです」

つい笑顔をほころばせた私に。佐瀬さんが、立てた片膝に肘を乗せ、半身を傾けて訝しそうに眉をしかめる。

「人の話聞ーてたか、お嬢ちゃん」

「前はそういうことは教えてもらえなくて、すごく悲しかったんです。だから、ちゃんと話してもらえるのが本当に嬉しいって思って」

『惚れた女にしか教えない』と言われたあの時。自分でも思わなかったくらいの衝撃を受けていました。
あれが引き金だった気もします。芽吹いていた恋を自覚できたのも。

「大事なのはそこなので、過去に拘るつもりはないですし、佐瀬さんのことがもっと知りたいです」

微笑みながらそう言うと。
目を眇めた貴方は、参ったとでも言いたげに大きく溜息を逃す。

「・・・敵わんねぇ・・・」