「・・・ほら風呂、行くぞ」

寝返りを打つようにこっちに向きを変えた彼が、あやすみたいなキスを落とし、おもむろに上体を起こした。
ゼロの距離で隣りに在った温もりが離れた瞬間。『行かないで』と口からもう少しで零れ落ちそうだった。
分かっているのに、こんなにも離れがたかった。

オネガイ。・・・あと少しだけ。もうすこしだけ・・・!
貴方のその背に腕を伸ばして、いっそ引き留めてしまおうかと。
・・・と。
釘付けになったわたしの視線。
息を呑むように。
目を奪われていた。

気が付きませんでした。
何も着ていない後ろ姿は、今はじめて見たから。

「・・・・・・佐瀬さん」

気怠げに顔が振り向く。

「あの。背中・・・」

「あー・・・」

無造作に髪を掻き上げた彼は小さく息を吐くように。
言った。

「見てのとおり、オレが極道モンだった名残だ」