引き留めては突き放される。まるで試すかのように。
私は視線を上げて彼を見つめた。

相手の目を見てごらん。
真っ直ぐに美玲を見てくれる人は、嘘をついたりはしないよ。
・・・ほら。僕みたいに。

今より人見知りだった頃の私に、愁兄さまが優しく諭してくれた言葉。

佐瀬さんの闇色の眼差しは。微動だにしないで、そこにありました。
硬く、砕けない鋼(はがね)のような意思を潜め。私を一息に貫いて。


抱かれる覚悟。
征士君を傷付ける覚悟。
お祖父さまを悲しませる覚悟。
何より兄さまを。

引き返すなら、ここだと。
躰の芯が戦慄いて震える。

見えない何かを突きつけて、私を捉えたままの貴方の眸。
逸らされた時には。
もう二度と戻らない。
永遠に貴方は私を見ない。
届かない。
どんなに願っても、心が引き千切れるほど泣いても!


本当にそれで一生後悔しないと言えるのなら。

彼が最後に差し出した手を。信じなかった自分に・・・!



「・・・・・・好きなんです、佐瀬さんが」

今、自分の中に逆巻くありったけの想いを込め。
澱みなく言い切って。

「だから。来たんです」

それが私の覚悟だと。
・・・誓ったのです。