「佐瀬さん、このお部屋・・・」

私の家に近いこのアパートをわざわざ借りたのかを訊ねようとして。
その先は続かなかった。
振り返った佐瀬さんにぐっと引き寄せられて、口を塞がれていたから。

驚いて。頭の中が本当に真っ白にスパークした。
思考も躰の神経も、麻痺して動けない。動かない。立ち竦んで。
前触れもなく。あっと思う間に隙間を縫って、強かな舌が口の中にゆっくりと、けれど躊躇なく侵入してきた時。

これが現実なのかが曖昧になった。
腰に回された腕と、頭の後ろを押さえ込んだ掌が私を逃がそうとはせず。されるがままなのか、受け容れているのかさえ。
舌先を擦られると敏感に反応してしまう自分に翻弄されて、意識が甘く痺れていく。


やっと離され、肩で喘ぐ私の顎に手が掛かり上を向かされた。
佐瀬さんと視線がぶつかり合って。どこか容赦なく、それでいて揺らぎもない深い眸に。吸い込まれたら、その奥底まで落ちて行ってしまいそうで。思わず目を伏せる。

「・・・・・・オレといるってのは、こういうコトだ。お嬢ちゃん」

冷たくも温かくもない低い声が静かに降った。

「抱かれる覚悟もない女が、・・・ノコノコついてくンな」