それまで威勢の良かった男の子が背中を強張らせ、他の2人もたじろいだのが手に取るように伝わった。

「・・・ッ、いーから行こうゼ、ジュンペイ・・・!」

逃げ腰のお友達が素直に踵を返すと。佐瀬さんを悪意に満ちた横目で睨み据えた彼は、舌打ちしながら肩を怒らせて立ち去り、人混みに紛れて見えなくなった。

張り詰めていたものが一気に解けた私は、ほっと息を吐き、溜め息雑じりに頭を掻いている佐瀬さんをそっと見やる。

さっきの、あの。百獣の王みたいな威圧感はもう跡形もなく。気怠そうな目の前の立ち姿は私が知るいつもの彼。

どちらも。・・・同じ彼なのだと。
愁兄さまが、どうして佐瀬さんを選んだのか。答えの一つを見つけたと思った。

「あー・・・大丈夫か、お嬢ちゃん」

大してそう思ってもいなさそうな表情で、取ってつけたように尋ねられて。

「あ、はい・・・っ。大丈夫、です」

はっとして笑みを取り繕うと、隣りの一実ちゃんが私と腕を組んだままでわざとらしく、ニッコリする。

「さすがですねー、佐瀬サン。突っ立ってるだけの使えないカカシだったら、遠慮なく蹴り潰してましたぁ」

「・・・そりゃ命拾いしたな。俺の、なけなしの生き甲斐なモンでねぇ」

「??」

心なしかジットリと眼を眇める佐瀬さんと、一実ちゃんのやり取り。
私にはちょっと良く分かりませんでした。