考えようとすればするほど、思考回路が深い迷路になっていくだけで。
一実ちゃんにただ『ごめんなさい』を繰り返す。

「・・・分かったから。もう泣かないで美玲」

私を落ち着かせるように、髪を撫でる優しい手。背中に回った方の手は、子供をあやすみたいな一定のリズム。

ようやく自分達がどこにいたのかを思い出せるくらいに、耳に喧騒が戻って。
おずおずと顔を上げれば、一実ちゃんの儚そうな笑顔があった。

「美玲が誰かをそんな風に言ったの、初めてね」

よしよし、と頭をぽんぽんされる。

「・・・そっか。佐瀬サンに自分を見て欲しかったんだったら、ちゃんと本人に言ってあげなきゃ。女心には疎そうなヒトだから、いちいち口にしないときっと伝わんないと思うな」  

でしょ?、佐瀬サン。
私の頭の上を通り越した一実ちゃんの視線を追い。後ろを振り返る。 
そこに。苦虫を嚙み潰したようなあの表情で、無造作に髪を掻き上げた彼が。
頭の中が一瞬で真っ白になった。
もしかして。聴かれてた、・・・んでしょうか。

次の瞬間には、背筋がさぁっと冷えて。爪先まで凍りつきました。
挙句、石になった私の向きを一実ちゃんがくるりと回転させ、前に押し出します。

「じゃああとは、ヨロシクお願いしますねー」

「か、・・・かずみちゃんっ?」

我に返って、あたふた。けれど私の肩をぽんと叩き、駅に向かって颯爽と歩いて行ってしまう彼(彼女)。

「明日、また話聞くからー」

あっさり手を振って雑踏に紛れていきます。

残された私は。ムンクの叫びのごとく、声にならない悲壮な呻きをあげ。
このまま砂になって消え去りたいと、・・・心から願ったのでした。