ママが夕食も誘ったけれど、明日からの仕事の準備も理由に、征士君は礼儀正しく辞退をした。

「そちらのご両親とも一度ぜひ、お食事でも。またいつでも、いらして下さいねぇ~」

『ぜひ』と『また』が更に強調されたご機嫌な声で、ママが見送ります。
並んだパパも和やかな笑顔で。

私だけ彼と外に出て、車のところまで一緒に。

「今日は本当に楽しかった。次はうちの両親を紹介するよ」

「・・・はい」

笑みで返す。

「休み明けは忙しくなるだろうな。多分すぐには会えないと思う。出来るだけ電話するから」

「無理しないで、頑張ってくださいね」

連休前も忙殺されていたのを思い出して気遣えば。
私を見下ろす眸が、悪戯っぽく弧を描いた。

「大丈夫。誕生日のご褒美も待ってるしね。死ぬ気で頑張れるよ」

「死なない程度にお願いします」

視線を傾げ、私も少しおどけ気味に。
微笑み合うと、隙をついて遠慮なくキスが落ちた。

「このままレイちゃんを連れて帰りたいのを、俺がどれだけ我慢してると思う・・・?」

甘やかで妖しい眼差しに覗き込まれたのは、不意打ちだったから。
思わず恥ずかしさで目が狼狽える。

「好きだ。・・・離れてたくないくらい、レイちゃんが好きだよ」

名残惜しそうに私をぎゅっと抱き締め。耳の奥に低く囁きを残して、征士君は帰って行った。



彼の一途な想いに。揺らされ始めている自分に気が付いていた。
征士君はとても好い人で。誠実で、私を幸せにしてくれそうな人。

・・・知らない間に、すとんと落ちるのが恋なら。

緩やかに傾いていくのは、それは。・・・なんて呼べばいいんでしょうか。