オネェの髭Ⅰ(短編集)

「暗いし臭いし湿度も高いわよ」

「じゃあ、Bの世界はどうなのよ?」

「ここよりはずっと明るいし空気も透き通ってるけど……」

「こっちがそんなに暗いの? じゃあBの世界は天国なの?」

「天国じゃあないけどここよりはマシかもしれないね」

「なんでこっちに来たの?」

「解らないの。 仕事から帰って寝た瞬間にここに来たの」

「仕事はホステス?」

「そう、それは一緒ね」

「何ていう店なの?」Aが聞いた。

「オネェの髭っていう店なの」

「同じね」

Bが「Aのお店に行ってみたい」

「じゃあ私が先行ってるから後からあんたが来てよ。 ママと美奈も驚かそうか」

店の場所もビルも同じだったがBの知る世界とは雰囲気が違った。

「今晩は。おじゃましま~~す。」

「どうぞ」ママの声だった。

Bが店に入ったと同時にドアが閉められ鍵をかける音がした。

「ママ、こいつよ!」Aが指さした。

「な、なに? どうしたの……?」

ママが「ほんとエバにソックリ。 あんたどういうつもり? なにが目的なの金かい?」

ママの顔は鬼の形相。 やっぱり、こっちの世界は全然違う。

美奈が「何もしないから酒でも飲んでいったら? 勘定少し高いけど。 痛い思いしたくないなら安いもんよ。 下手な小細工しやがって」

エバは思った。 私の知る美奈はこんな言い方をする娘じゃあないし、この世界はなんなの? 魔界なの? それとも地獄? 神様助けて……

次の瞬間いつもの部屋に戻っていた。

……怖かった~ なんなのよ今のは?

あの鬼のような三人の顔、一人は自分だけど自分があんな世界にいるなんて最低。 それから数日が過ぎ、また意識が遠のいた。 今度の世界は明るくてワクワク感を感じる所だった。 空気は見たことのないくらいすっきりと済んでいた。 前回行ったあの世界とは雲泥の差。 次の瞬間、集落のような所にエバは立っていた。 人々の顔はみんな明るく笑顔で何よりも透明感があった。 顔を視た瞬間その人の意識が鮮明に伝ってくる。 この世界に言葉は要らないと思った。

胸になにかの意識が響いた「この世界に言葉は無い。 思った瞬間に意識が伝わる。 本来のありかた。 本当の世界」

エバはこの世界の意識を感じただけで幸福感を得た。 今、私に語りかけた意識は?

「私よ、あなた」

エバは咄嗟に思った。 やっぱりオネエなの?

瞬間「あなた達のような意味合いの身体はない。 雌雄は人間界だけ。 ここは雌雄がない。 あるのは意識だけ」

次の瞬間、別の所に立っていた。

意識が入ってきた「空」

エバは上を見た「あれ? 明るいのに太陽がない?」

意識が入ってきた「セントラル・サン。 個人個人の中央に太陽」

動物も草木、石にも意識があり、全てが調和されているという実感があった。

「ここはきっと天国だわ」と思った瞬間。

「実存世界」と伝わってきた。

「私も死んだら此処に住みたい」と思った。

瞬間エバはいつもの部屋に戻った。

しばらく放心状態が続き何もしたくなかった「あんな世界なら死んでもいいかな……」

エバの体験を店の二人に話した。

ママが「エバちゃん、不思議な体験したのね」

エバが「天国なら何回行っても良いわね。 最高。 ところで美奈ちゃん、あんた別世界でこの私を恫喝いや恐喝したのよ。 とっても怖かったんだからねぇ、ほんとうにびびったんだから。 どう責任取るのよ……」

「エバさんごめんなさい。 今度いいヒゲ剃り貸してあげま~す」

「くれるんじゃなくて貸すんかい。 貸すならいらないわよ……ケチ」

三人は笑って話しをしていた。いつもの生活が始まった。

その後、エバは新しくオープンした「オネエの髭 池袋店」の雇われママとして働いた。

店の奥にはエバの部屋が用意されていた。

END