「じゃっ、なにかい。俺が冬場も仕事は当たり前に来ると思い込んだら、冬場も仕事が来るってぇことかい?」
「そういうことだと思うけど…… 思いは形になるっていうから。 きっとそうよ。 ガイドさんは間違わないよ」
「へぇ、そんなもんかね……」
「そっか、明日から仕事の練り直しだな」
「はいよ!」
「エバ、ありがとう。胸の支えが落ちたような気がした。 そういえばエバも片胸の支えが落ちてるぞと」
エバは眉間にしわを寄せて「うっせえ!おめ」
三上は嬉しそうに笑った。
エバは真顔で「ふふ、 三上さん。大丈夫よ」
数ヶ月後、突然三上がお土産を沢山抱え上機嫌で店にやってきた。
ある日の開店まもなく、女子高校生風の二人が来店した。
「ごめん下さい……」
「ハイ、いらっしゃいませ?」
ママが入口を見た。
髪の長い娘が「あの~~う。 すみません」
「お姉さん達ここは未成年者の入店は断ってるのよ……」
「……」
なにかを察したママは優しく「なにか用事ですか?」
「こちらにエバさんという方がいるって……?」
「エバちゃんはいるけど、あなた達この店どういうところか知ってるの?」
「オカマバーでしょ」
「まっ、ハッキリ言うのね。 まっ、そういわれればそうだけど。で、エバちゃんに相談事なの?」
「あ、ハイ!」
「そっかぁ、じゃあ地下鉄駅の前にハンバーガー屋あるでしょ。 そこに行って待ってなさいよ。 エバちゃんに行ってもらうから三十分ほどかかるけどね。 それと、おかしな男達が声掛けてくるから相手にしちゃ駄目よ。 あいつら性悪だから相手したら怖いよ。
じゃあ行って待ってなさいね」
「ハ~イ!」
ハンバーガーショップにエバが来た。
「私、エバだけど…… あんた達なの? 私に用事があるって娘」
「ハイ、私が奥山でこっちが小山内です。 初めまして」
「ハイ、初めましてエバです。 緊張しなくていいのよ、私は人間だからね。 妖怪じゃあありませんから。 で、ご用件は?」
髪の短い小山内が口を開いた「先日、木から落ちて手が動かなくなった中学生を、エバさんが霊視して動くようにしたって聞いたんです。 本当ですか?」
「そういうこと確かにあったわよ。 でも、動くようにしたのは整体師さん。 私は整骨院に行くように助言しただけ、で、それがどうかしたの?」
「私の母が半年前に脳梗塞を患って、右半分が麻痺してるの。それで、エバさんの意見が聞きたいのですが…」小山内は涙目になっていた。
「そういうことか…… それでわざわざ店に来たのね。あんなところだから、入るのに勇気必要だったでしょ」
「ハイ……」
「最初にいっておくけど絶対に期待はしないでね。 どういう結果になってもこればっかりは私の自由にならないことなの」
「はい」
「……」
しばらく沈黙が続いた。
「あのね、今よりかなり改善され手足はよくなるみたい。 但し三年様子みるようにって。 徐々にそして急激に回復しますって」
小山内の目から涙が落ちてきた。
「死んだ脳の代わりを違う脳がするんだって、なんでも出来ないって諦めないで肯定して考えなさいって。 それが回復を早くさせるって。 お母さん主婦なの?」
「はい」
「家事を普通にどんどんさせなさいって。 家事は普段からやってることだから肯定的な意識が強いの、一番のリハビリーだって。 あなたわかるかしら?」
「はい、解りました。 わざわざありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして。 お母さんを助けてね、でも甘やかしたら駄目よ。 それがお母さんのため。 じゃあ私お店だからこのへんでね。 あんた達、もう少し大きくなったらお店に遊びに来てね約束よ! 楽しみに待ってるから気をつけてお帰り。 じゃあね、さようなら!」
「ママただいま」
「どうだった?」
「やっぱ、あの年代は純粋ね、私の昔を思い出すわ」
「あんたは男の尻ばっか追っかけてたんじゃないの」
「それ正解!」
「今日は忙しくなるわよ」
常連の弥生が店に来た。
「いらっしゃいませ」
弥生はエバのライバルというか天敵だった。
美奈が「弥生さん久しぶりね元気だった?」
「そうでもないのよ。バーボン、ボトルでお願い、氷の頂戴ロックでいく」
美奈が心配そうに「どうしたの? お店で何かあったの?」
「……」
美奈は気を利かせて「エバちゃん、私買い物行ってくるからここいいかしら。 お願いできる……」
エバは渋々やってきた。
弥生の目を見て「弥生どうした元気なさそうね。 なにかあったのかい?」
「生きてりゃあそういう事もあるよ……」
「あっ、そう…… どうも失礼こきましたね!」
二人のあいだに沈黙が続いた。
そのうち弥生のコップを持つ手の震えをエバは察した。
「あんた、ちょっとこっちに来ない?」
二人は個室に入った。
エバが「なにあったのさ? いってみなさいよ」
「だれが、あんたなんかに……」
「あっ、そう」
エバは続けた「じゃあ、なにしに店に来たの?」
「飲みに来ちゃあ駄目なの?」
「勝手にしな」
「私もエバみたいに脳天気に生きてみたいわよ」
「脳天気で悪かったね」
突然、弥生のガイドの意識がエバに伝わった。
語気を強め「弥生、あんたなにあったのよ?」
「なによ……」
「ちゃんと話しなさいな……」
弥生は下を向いた「……」
「わたし、お付き合いしてた男が交通事故で死んだの」
「それで?」
「もう、いい」
「よくない…… いいなさいよ」
「……」
「じゃあ、私がい言おうか、あんたその男性のあとを追おうと思ってるでしょ。 それで今日はお別れに寄ったってことね」
「……」
「彼は絶対に死ぬな! って言ってるけど、あんたはこっちの世界でやり残してることたくさんあるから、もう少しこっちで生きて欲しいって。 時期が来たら迎えに来るからって。これ彼からの伝言……」
「何で先に逝ったのよ」弥生が呟いた。
「こっちの世界でやることは終わったって。人間としての役目が終わったらもと居た世界に帰るのよ。 弥生、解った? 彼、あんたのこと心配してるよ」
弥生の目から大粒の涙が止めどなく流れ落ちた。
もう大丈夫。エバは思った。
「私、戻るからメイク直してからおいで。 今、そんな顔で出て来たら店中大変な騒ぎになるから。 今日はその彼の弔いよ一緒に飲もう。 あんたのおごりで、待ってるから」
弥生はエバに深々と頭を下げた。 しばらくして弥生は出て来た「美奈ちゃん、エバにグラスやってちょうだい」
まだ涙目の弥生は「エバ、今日はありがとうね」
「なにが? 聞こえないけど……」
「エバ、今日はありがとうね」
「やっぱ、聞こえな~い」聞こえないふりをした。
「うるせぇ、てめぇ。耳腐ってんじゃねえのか片乳……」
「弥生、それでいいのよ」小声でエバは微笑んだ。
そして「聞こえねえもんは、聞こえねんだよ~」
「なんだって! 片乳のくせに生意気言うじゃねえ。この半分オカマ野郎が」
「半分オカマ野郎だってか? 親にもいわれたことねえ事をてめえは……」
「なによ、私の酒ただ飲みしてるくせに」
ママも美奈も、いつものエバと弥生に戻ったのを見てホッとしていた。 美奈が帰る頃にはすっかり酔っていた。
店を出る時に「エバ、ありがとうね」と呟きながら出て行った。
桜の咲く季節だった。店は花見帰りの客で朝方まで混んでいた。この店は遅い時間になってからが忙しい店で、エバが帰宅したのは朝の五時過ぎた頃。
「あ~~もう駄目、今日は寝る!」そういいながら布団に入った。
眠りに入ってすぐ意識が遠のいて、気が付くとそこは薄暗い見たことのない街を歩いていた。 獣のような異臭のする空気感。 ここはどこ? 遠くで、なにやら複数の人影があり口論してるような異様な雰囲気がした。 次の瞬間その人影の中にエバも立っていた。
目を凝らして見てみると、なんとエバが数人相手に口論していた。
「あんたが悪いのよ、謝るのはあんたでしょうが」エバの声だった。
「なんだとコラ! オカマのくせに偉そうに」
「オカマのどこが悪いのよ!」見ていたエバが声を掛けてしまった。
次の瞬間人影がざわつきだした。
「なんだ? 同じオカマが二人いるぞ、オイ」
「何ジロジロ見てるのよ。 見せ物じゃないのよ。 とっとと帰んな」
エバと喧嘩していた相手は「なんだ? こいつら気持ち悪い」その相手は何処かに消えてしまった。 残ったのは二人のエバだった。
この世界に来たエバが口を開いた「ここは何処? あんたは誰?」
「私はエバ、ここはここよ。 日本でしょ新宿」
「なにいってんのよエバは私。 昭和六十二年二月五日生れ。あんたは?」
「同じだ……? どういう事?」
眠りについたエバはパラレル・ワールドに紛れ込みもうひとりのエバと対面したのだった。
「紛らわしいからこっちの暗い世界のあなたが、エバAで、明るい世界から来た私がエバBでどう?」
「好いけど、こっちの世界は暗いって?」
「そういうことだと思うけど…… 思いは形になるっていうから。 きっとそうよ。 ガイドさんは間違わないよ」
「へぇ、そんなもんかね……」
「そっか、明日から仕事の練り直しだな」
「はいよ!」
「エバ、ありがとう。胸の支えが落ちたような気がした。 そういえばエバも片胸の支えが落ちてるぞと」
エバは眉間にしわを寄せて「うっせえ!おめ」
三上は嬉しそうに笑った。
エバは真顔で「ふふ、 三上さん。大丈夫よ」
数ヶ月後、突然三上がお土産を沢山抱え上機嫌で店にやってきた。
ある日の開店まもなく、女子高校生風の二人が来店した。
「ごめん下さい……」
「ハイ、いらっしゃいませ?」
ママが入口を見た。
髪の長い娘が「あの~~う。 すみません」
「お姉さん達ここは未成年者の入店は断ってるのよ……」
「……」
なにかを察したママは優しく「なにか用事ですか?」
「こちらにエバさんという方がいるって……?」
「エバちゃんはいるけど、あなた達この店どういうところか知ってるの?」
「オカマバーでしょ」
「まっ、ハッキリ言うのね。 まっ、そういわれればそうだけど。で、エバちゃんに相談事なの?」
「あ、ハイ!」
「そっかぁ、じゃあ地下鉄駅の前にハンバーガー屋あるでしょ。 そこに行って待ってなさいよ。 エバちゃんに行ってもらうから三十分ほどかかるけどね。 それと、おかしな男達が声掛けてくるから相手にしちゃ駄目よ。 あいつら性悪だから相手したら怖いよ。
じゃあ行って待ってなさいね」
「ハ~イ!」
ハンバーガーショップにエバが来た。
「私、エバだけど…… あんた達なの? 私に用事があるって娘」
「ハイ、私が奥山でこっちが小山内です。 初めまして」
「ハイ、初めましてエバです。 緊張しなくていいのよ、私は人間だからね。 妖怪じゃあありませんから。 で、ご用件は?」
髪の短い小山内が口を開いた「先日、木から落ちて手が動かなくなった中学生を、エバさんが霊視して動くようにしたって聞いたんです。 本当ですか?」
「そういうこと確かにあったわよ。 でも、動くようにしたのは整体師さん。 私は整骨院に行くように助言しただけ、で、それがどうかしたの?」
「私の母が半年前に脳梗塞を患って、右半分が麻痺してるの。それで、エバさんの意見が聞きたいのですが…」小山内は涙目になっていた。
「そういうことか…… それでわざわざ店に来たのね。あんなところだから、入るのに勇気必要だったでしょ」
「ハイ……」
「最初にいっておくけど絶対に期待はしないでね。 どういう結果になってもこればっかりは私の自由にならないことなの」
「はい」
「……」
しばらく沈黙が続いた。
「あのね、今よりかなり改善され手足はよくなるみたい。 但し三年様子みるようにって。 徐々にそして急激に回復しますって」
小山内の目から涙が落ちてきた。
「死んだ脳の代わりを違う脳がするんだって、なんでも出来ないって諦めないで肯定して考えなさいって。 それが回復を早くさせるって。 お母さん主婦なの?」
「はい」
「家事を普通にどんどんさせなさいって。 家事は普段からやってることだから肯定的な意識が強いの、一番のリハビリーだって。 あなたわかるかしら?」
「はい、解りました。 わざわざありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして。 お母さんを助けてね、でも甘やかしたら駄目よ。 それがお母さんのため。 じゃあ私お店だからこのへんでね。 あんた達、もう少し大きくなったらお店に遊びに来てね約束よ! 楽しみに待ってるから気をつけてお帰り。 じゃあね、さようなら!」
「ママただいま」
「どうだった?」
「やっぱ、あの年代は純粋ね、私の昔を思い出すわ」
「あんたは男の尻ばっか追っかけてたんじゃないの」
「それ正解!」
「今日は忙しくなるわよ」
常連の弥生が店に来た。
「いらっしゃいませ」
弥生はエバのライバルというか天敵だった。
美奈が「弥生さん久しぶりね元気だった?」
「そうでもないのよ。バーボン、ボトルでお願い、氷の頂戴ロックでいく」
美奈が心配そうに「どうしたの? お店で何かあったの?」
「……」
美奈は気を利かせて「エバちゃん、私買い物行ってくるからここいいかしら。 お願いできる……」
エバは渋々やってきた。
弥生の目を見て「弥生どうした元気なさそうね。 なにかあったのかい?」
「生きてりゃあそういう事もあるよ……」
「あっ、そう…… どうも失礼こきましたね!」
二人のあいだに沈黙が続いた。
そのうち弥生のコップを持つ手の震えをエバは察した。
「あんた、ちょっとこっちに来ない?」
二人は個室に入った。
エバが「なにあったのさ? いってみなさいよ」
「だれが、あんたなんかに……」
「あっ、そう」
エバは続けた「じゃあ、なにしに店に来たの?」
「飲みに来ちゃあ駄目なの?」
「勝手にしな」
「私もエバみたいに脳天気に生きてみたいわよ」
「脳天気で悪かったね」
突然、弥生のガイドの意識がエバに伝わった。
語気を強め「弥生、あんたなにあったのよ?」
「なによ……」
「ちゃんと話しなさいな……」
弥生は下を向いた「……」
「わたし、お付き合いしてた男が交通事故で死んだの」
「それで?」
「もう、いい」
「よくない…… いいなさいよ」
「……」
「じゃあ、私がい言おうか、あんたその男性のあとを追おうと思ってるでしょ。 それで今日はお別れに寄ったってことね」
「……」
「彼は絶対に死ぬな! って言ってるけど、あんたはこっちの世界でやり残してることたくさんあるから、もう少しこっちで生きて欲しいって。 時期が来たら迎えに来るからって。これ彼からの伝言……」
「何で先に逝ったのよ」弥生が呟いた。
「こっちの世界でやることは終わったって。人間としての役目が終わったらもと居た世界に帰るのよ。 弥生、解った? 彼、あんたのこと心配してるよ」
弥生の目から大粒の涙が止めどなく流れ落ちた。
もう大丈夫。エバは思った。
「私、戻るからメイク直してからおいで。 今、そんな顔で出て来たら店中大変な騒ぎになるから。 今日はその彼の弔いよ一緒に飲もう。 あんたのおごりで、待ってるから」
弥生はエバに深々と頭を下げた。 しばらくして弥生は出て来た「美奈ちゃん、エバにグラスやってちょうだい」
まだ涙目の弥生は「エバ、今日はありがとうね」
「なにが? 聞こえないけど……」
「エバ、今日はありがとうね」
「やっぱ、聞こえな~い」聞こえないふりをした。
「うるせぇ、てめぇ。耳腐ってんじゃねえのか片乳……」
「弥生、それでいいのよ」小声でエバは微笑んだ。
そして「聞こえねえもんは、聞こえねんだよ~」
「なんだって! 片乳のくせに生意気言うじゃねえ。この半分オカマ野郎が」
「半分オカマ野郎だってか? 親にもいわれたことねえ事をてめえは……」
「なによ、私の酒ただ飲みしてるくせに」
ママも美奈も、いつものエバと弥生に戻ったのを見てホッとしていた。 美奈が帰る頃にはすっかり酔っていた。
店を出る時に「エバ、ありがとうね」と呟きながら出て行った。
桜の咲く季節だった。店は花見帰りの客で朝方まで混んでいた。この店は遅い時間になってからが忙しい店で、エバが帰宅したのは朝の五時過ぎた頃。
「あ~~もう駄目、今日は寝る!」そういいながら布団に入った。
眠りに入ってすぐ意識が遠のいて、気が付くとそこは薄暗い見たことのない街を歩いていた。 獣のような異臭のする空気感。 ここはどこ? 遠くで、なにやら複数の人影があり口論してるような異様な雰囲気がした。 次の瞬間その人影の中にエバも立っていた。
目を凝らして見てみると、なんとエバが数人相手に口論していた。
「あんたが悪いのよ、謝るのはあんたでしょうが」エバの声だった。
「なんだとコラ! オカマのくせに偉そうに」
「オカマのどこが悪いのよ!」見ていたエバが声を掛けてしまった。
次の瞬間人影がざわつきだした。
「なんだ? 同じオカマが二人いるぞ、オイ」
「何ジロジロ見てるのよ。 見せ物じゃないのよ。 とっとと帰んな」
エバと喧嘩していた相手は「なんだ? こいつら気持ち悪い」その相手は何処かに消えてしまった。 残ったのは二人のエバだった。
この世界に来たエバが口を開いた「ここは何処? あんたは誰?」
「私はエバ、ここはここよ。 日本でしょ新宿」
「なにいってんのよエバは私。 昭和六十二年二月五日生れ。あんたは?」
「同じだ……? どういう事?」
眠りについたエバはパラレル・ワールドに紛れ込みもうひとりのエバと対面したのだった。
「紛らわしいからこっちの暗い世界のあなたが、エバAで、明るい世界から来た私がエバBでどう?」
「好いけど、こっちの世界は暗いって?」



