オネェの髭Ⅰ(短編集)

父真二が言った「それはつまり、お釈迦様の悟りのようなものかい?」

「釈迦と違うけどそうともいえる」

母が「難しいこと、母さんには解らないけどお前が納得したならそれでいいのよ
ここにお前と食事できてることが母さんは一番の幸せなの」

母親らしい言葉。

「ところで帰ってきたんだろう? また旅に出るとか考えてるのかい?」真二が口を開いた。

母親の眼差しも真剣になった。

「うん、しばらく厄介になろうかなと思ってる」

二人に安堵の表情が見て取れた。 翌日、花子は幼なじみの直子の家に向かった。

玄関に直子の姿があった。

「ハナちゃん帰ったのね……お帰り」

「ただいま帰りました」

2人は部屋で話した。 直子がハナと横浜での出会いの場所をご両親に言えず、偽って報告したことなど。 花子も次郎爺さんが亡くなってから自分の変化のことなど話した。

別れ際、直子はが「これからどうするの?」

「風の吹くまま」そう言い残し花子は帰っていった。

花子が実家に戻り、十日が過ぎた。

花子は吉祥寺サンロード商店街を午後九時過ぎに歩いていた。

「お姉さん占いしませんか?」

年の頃なら六十前後の女性が花子に声を掛けてきた。

簡単な椅子とテーブルがあり、張り紙には「前世占い」と書いてあった。

花子が立ち止まって見ていると、その占い師が「お姉さんどう?」

「何がどうなんですか?」

「一問一答、三千円であなたの前世を見てあげますよ」

「見てどうするんですか?」

「はい、あなたの前世から引きずっているカルマを教えます」

「カルマを知ってどうするんですか?」

得意げに「今後のあなたの人生が好転いたします」

「そうですか……私は結構です」

花子は立ち去ろうとした。

「チョット待った。あなたは一人っ子ね」

「はい、そうですけど」

「悩み事とか無いの? 年頃のお嬢さんなら結婚問題とか一つや二つあるでしょ」

「私に悩みはないの。 あるのはあなたの方です」

怪訝な顔をして占い師は花子を凝視した。

「お嬢さん、それ私のことをいってるの?」

「こ他に誰かいいます?」

「私の何が解るっていうのよ」

占い師は先ほどまでの態度と少し変わっていた。

「あなたはその占いの職業のことで辞めようか続けようか悩んでるみたいですね」

占い師の顔色が変わった。

「なんで解るのよ?あなたも同業者なの?」チョット語気が威圧的だった。

花子は淡々と話した。

「あなたのガイドがあなたに、自分をきっちりと見つめてほしいといってます。
ガイドの伝言だけ伝えます」

言い伝えると、花子はその場を立ち去ろうとした。

「チョッ、チョット待って」

「あなた何者なの?」

「私は花子です。 只の女の子です」

花子の言葉には気高さがあった。

「なにやってる人なの?」

「何もやってません。 というか先月までは横浜でホームレスしてました」

「プッ! あなた、面白いお嬢さんね、もう少し私と話していかないこと?」

「いいですけど、商売の邪魔になるわよ」花子は気遣った。

「かまわないよ。 どうせ客が来るのは十時過ぎなの」

「私はかまいませんけど」

占い師は自分の相談事を花子に打ち明けた。

「ハナちゃんありがとう。私、スッキリこの商売から足を洗うことにした」

花子が悟後、初めて他人の相談に乗った日だった。

それからの花子は吉祥寺サンロードで、不定期だけど占い師から譲り受けた粗末な椅子とテーブルを置いて悩み事相談をしていた。

横浜のホームレス広場は撤去され、ホームレス仲間全員、何処かの空の下に散っていった。

不世出の哲学者、花子の物語。

END