3階の端にある音楽室は、日当たりがよく、その日も暖かな春の光が差し込んでいた。
中学2年の春。朝陽のいる吹奏楽部には、12人の新入生が体験入部に訪れた。
奥行きのある音楽室で、入口近くに1列で並んだ新入生は、皆一様にソワソワしていて、落ち着きがない。その中に、青色のジャージを着た3人の男子生徒を見つけ、朝陽は驚いた。
なにしろ、吹奏楽部の部員は基本女子ばかりだ。都会で暮らしたことの無い朝陽には分からないが、田舎の中学で吹奏楽部に入る男子は、ほとんどいないといっても過言ではない。実際、朝陽のいる吹奏楽部でも、3年生に1人いるだけで2年生は0。一学年に3人もというのは、かなり珍しい。
しかし、朝陽の反応とは裏腹に他の2年生や3年生はそれほど驚いてはいないようだった。不思議に思い、隣にいた沙耶に話しかけようと声を出しかけたところで、部長の挨拶が始まった。
「全員そろったようなので、始めたいと思います。3年部長の平野美月です。」
「3年副部長の相澤渚です。」
「1年生の皆さんにはこれから1週間で全部の楽器を吹いてもらい、その後、オーディションで皆さんの
楽器を決めたいと思います。順番は自由ですが、全ての楽器を2回は吹くようにお願いします。どこに
どの楽器があるかは、後ろの黒板に書かれているとおりです。それでは、早速始めましょう!」
美月先輩の合図で、2、3年生が次々と自分の持ち場へと散っていく。音楽室を出て他教室へ行く人や、
急いで窓際に椅子を並べている人など実に様々だ。一方で、1年生は音楽室後方で未だ動き出せずにいる。
「うちらも1年前はあんなだったんだよねぇ」
誰にともなく、沙耶が言った。妙に感慨深く言うので、少し笑ってしまった。そう言われて、自分は先輩になるんだなと今更ながら思った。
少しして、1年生が動き出した。2人組や3人組になって、どこに行くかこそこそと相談している。やがて、どこに行くのか決まったらしき女子2人組がぎこちなく歩き出した。歩幅が小さく歩くのがゆっくりになっているのを見ると、緊張しているんだろうと思う。その姿が1年前の自分と重なり、沙耶と同じことを思ってまた笑ってしまった。
女子2人組が向かったのは、音楽室の奥側。フルートの場所だった。フルートパートのパートリーダー、日岡奈緒先輩が、女子2人組を並べてあった椅子へと促した。