夢は無い。才能もない。かといって、その事に対して特に悲しいとも思ってないし、夢がほしい!才能が欲しい!とも思ってはいない。




学校の帰り道、野良猫を横目で見ながら、「自由でいいなぁ」
なんて考えてみる。帰宅まで15分、することもないのでいつもボーとして帰る。毎日同じような日々で何の刺激も無い。




高校二年の俺にとって一番、青春まっただなか!みたいになるはずだったなのに、俺には青春感が全く無い。酷く言ったら、高校生活灰色~みたいな感じなのだ。夢も特に無いし、ダラ~とした高校生活をおくっている。




そんなような悲しいことを考えていたら、家についてしまった。これで今日も終わりか~という雰囲気になる。




「ガチャン」とドアを開けて家にはいる。学校もつまらないが、家も相当つまらない。すること無いし、したいこともない。




「ただいま~」




家に今は誰もいないので「お帰り」は返ってこない。母はパートで9時に帰ってくる。父は夜勤で今日は帰ってこない。




リビングにいくと、




〈今日はご飯作れないからなんか買ってきてね。母より〉




と、書いてあるメモ書きを発見した。今日の夜ご飯は弁当に確定した。また外に出るのめんどくないな~なんてダラダラと考えながら、メモと一緒に置いていった千円札を手に取り、また玄関に向かう。




玄関で腰をおろし靴紐を結び直す。結び終え、玄関から出ると、夏の夜の香りがした。今は7月中旬、暑くもなく、涼しくもなくという微妙な温度だ。だが、夏の夜の香りは好きだ。なぜだかわからないが、なにか刺激的な事が起こるのではないかと期待してしまうのだ。




近くのスーパーに足を進める。夏の空気を深呼吸して吸い込む、そして吐く。あまり都会ではないので、空気がすごく澄んでいて気持ちがいい。




スーパーに着くと、好きな弁当を手に取りレジに持っていった。「ピッ」とスキャナーにとおしていくと値段が表示された。パートのおばさんはその値段を読み上げる。母もこうして仕事をしているのだろうか、と少し想像してみる。




弁当を一つしか買わなかったので、パートのおばさんがレジ袋に詰めてくれた。サービスがいい。




「ありがとうございます」とお礼を言うと、おばさんはニコッとシワをよせて「いいえ~」と言った。




スーパーの自動ドアから出るとまた夏の夜の香りが漂う。お腹がすいたので早く家に帰って弁当を食おうと思い、足を早める。




すると、「ドンッ」と何かとぶつかった。慌てて謝ろうと顔をあげると、フードを被っている同い年くらいの女の子がそこにはいた。




「すみません」と俺は謝る。





「……………」彼女はフードをとらずに下を向き、何もしゃべらない。まるで、『喋りかけるな』とでも言いたそうな雰囲気を纏っている。俺は内心、なんだこいつと思ってしまう。




「あの、大丈夫ですか?」俺は念のためしつこく聞いてみる。うざいと思われてもしょうがない。後でなんだかんだ言われたら、困るのは俺だ。




彼女はフードの下から少し俺を見た。その目は完璧に敵意むき出しの目だった。俺は少しビックリした。こんなに人から睨まれたことは一度もなかった、しかも女子に!。地味にショックだった。




「あの~まぁ大丈夫ならいいんですけど……」と俺は彼女の声を聞くのをあきらめる。すると、




「大丈夫なんでしつこく話しかけないでください」と、やっと口を開いたかと思えば、そんなことを言われた。だが、声はすごく透き通っていて、なんかきれいだ。何なんだ、こいつ。




彼女は、短くて綺麗な黒髪をふわっと夏の風に揺らしながら、右足を軸にくるっと華麗にターンし、俺に背を向け、そして走り出した。彼女の背中を見ると、最初は普通の鞄だと思っていた物がギターだったことに気づいた。持ち運びできる用のギターケースだ。




「なんだ、アイツ、ギターとか弾くんだな」なんて初対面の人に向かって心の中でぼやいてみた。ボーと彼女の背中を見ていると、あっという間に彼女は夏の夜に消えていった。まるでさっき俺と一緒に居たのが幻のように思えてくる。




後で分かったことだが、彼女とは初対面では無かった。とても近くに居たようで、居なかった、そんな存在だったのだ。




俺は心地いい夜風にあたりながらさっき買ったお弁当が入ったレジ袋を手にぶら下げ、さっきの人について考える。




「俺は悪く無かったよな…」と、さっきの情景を思い出す。俺は普通に道を歩いていただけだよな。まぁ、少し足を早めたけど。あっちがぶつかってきたのだ、多分…。




さっきの人の事が頭の中でグルグルと回って離れない。




「あぁーもう何なんだよアイツー!」道の端であたまを抱える俺。女子に睨まれることは俺にとってあまりよろしく無いことである。




「何なんだよアイツ…」と呟く。今度は、




「何なんだよアイツ!!」と叫ぶ。




これが柏森莉音との“二回目”の出会いだった。