すごい。本当にすごい。

皆、先輩を見てる。


先輩が得点を決めると、低い男の人達の歓声をかき消すほどの黄色い声が飛び交った。

でもそれ程の歓声が上がる理由もよくわかる。

練習試合だからといって先輩が手を抜く事は絶対ないのだけれど、練習試合でこれだけ魅了されてしまうのだから、大会ではどうなのだろうと期待してしまう。


すごいな、先輩。それしか出てこない。

……遠いな、すごく。








試合は、4-0で快勝だった。

練習試合が終わって帰り支度をする先輩に、女性の集団が近づいた。


その中の中心にいたのは、中学の時の木村先輩だった。


木村先輩が、先輩にタオルを渡した。
先輩はそれを受け取って、「どーも」と一言返す。


虎頭先輩の元彼女。それなのに、どうしてまた、そうやって普通に接しているのだろう。


本当に、「元」が付くのだろうか。既にヨリを戻している可能性だって十分にある。



あんなにきれいな人だ。虎頭先輩の隣を歩くのに、緊張なんてする事はないだろう。
そもそも私とは全然素(もと)が違う。


こうして遠目に先輩とそれを囲む人達を眺めていると、冷静になって客観視できる気がする。




何を勘違いしていたのか。

先輩は、私の事を後輩としか思っていないし、連絡先を交換したのだって何かあった時に知っておいたら便利なだけだし、だからくだらない連絡はしない。

部活の後輩。田中先輩達と同じように接してくれていただけなのだ。


先輩と私は違いすぎる。

大丈夫、まだ取り返しがつく。勘違いしていた、で済む。



「ねえ莉々。結局、莉々の先輩って誰?」

「あー…なんかいないみたい。休みなのかな」

「え?まじ?」


こうして私は、開きかけた蓋をしめて、もう蓋が緩む事すらないようにガムテープで巻いたのだ。